まずiPad版「Final Cut Pro 2」のライブマルチカム機能とはどういうものかを整理してみよう。ベーシックには、iPadに最大4台までのカメラを同時にワイヤレスで接続し、コントロールできる機能を搭載するというものだ。
このカメラはiPhoneもしくはiPadということになり、撮影のための専用カメラアプリ「Final Cut Camera」が提供される。このアプリ上では、ホワイトバランス、手動フォーカス、ISO感度、シャッタースピードがマニュアルで調整できるようだ。ここからリアルタイムでiPadのFinal Cut Pro 2に伝送されるのはプレビュー用のストリームで、これを見ながらリモートで各カメラの露出、フォーカス、ズームが制御できるという。
ここから先はプレスリリースに書かれた、よく分からない説明を解読していくしかないのだが、この4つのリアルタイムプレビューは、単にモニターできるだけ、という可能性が高い。本来ならライブでiPad側にも録画されればいいのだろうが、それができるのかできないのか、現在の書きぶりではわからない。ただ撮影後になるのか、先にプロキシデータが伝送され、それを使って編集が開始できる。後々フル解像度のデータが転送されると、それに差し替えられるということのようだ。
またiPad上のストレージ容量を補助するために、外部ストレージをつないでおき、その中にプロジェクトファイルが置けるようだ。プロジェクトファイルが外部に置けるという意味がよく分からないと思うが、Final Cut Proはプロジェクトファイル内に素材クリップデータもパッケージ化して内包してしまうので、プロジェクトファイルがクソデカになるのである。よって外部ストレージにプロジェクトファイルが置けるということが、メリットとして紹介されているというわけである。
さて、ここまでご紹介したところで、このアプローチはどこかで見たことが……と気付く方もいるだろう。編集ソリューションのために専用カメラアプリを用意するという方法は、23年9月の「Blackmagic Camera」と同じ手法である。10月30日に開催されたAppleのイベント「Scary Fast」の映像が、iPhone 15 Pro MaxとBlackmagic Cameraを使って撮影されたことで一躍知られることになったiPhone用カメラアプリだ。
この事例からも分かるように、Appleは自社では賄えない動画映像制作関連の技術開発で、Blackmagic Designと蜜月関係にある。
そしてもう1つは、編集アプリにライブマルチカム機能を搭載するという発想だ。これは24年4月に行われた世界最大の映像機材展「2024 NAB Show」で、Blackmagic Designが同社のハイエンド編集ツールDaVinci Resolveに、ライブマルチカメラ機能を搭載した動きとよく似ている。ライブカメラ映像を表示して興味を引くポイントに「POI」(Point of Interest)マーカーを打つと、そこがキャプチャーされてタイムラインに配置されるというマルチソース機能が搭載された。POIはリプレイを行うためのポイントとしても活用され、マルチカメラ映像を同時に動かしてリプレイ再生ができる。
このような経緯から、今回のiPad向けライブマルチカムソリューションは、Blackmagic Designとのコラボレーションの中で実現したものと見るべきだろう。この点は、「さすがApple、どこもやっていないことをやった」みたいな記事が出回る前に指摘しておく。おそらくBlackMagic Designのソリューションと食い合わないよう、すみ分けが行われたものと考えられる。
まあその割にはiPad Proのプロモーション動画「Crush!」の中で、DaVinci Resolve Mini PanelとDaVinci Resolve Editor Keyboardを派手にぶっ壊しているので、ティム・クックはあとでグラント・ペティ(Blackmagic Design CEO)に怒られろ。
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