今回、エレキソルト スプーンを開発した佐藤さんは、入社以来、新規事業向けの事業開発を担当してきた。主要製品であるビールなどを担当していなかったこともあり、世に出なかった研究が多く、製品化までこぎ着けたのはこの製品が初めてだったそうだ。
「キリンの研究所では、担当以外の社会課題やお客さまの課題に答えるような技術開発について、10%ぐらいの稼働で取り組むことが認められています。以前、病院にうかがった時、食事療法の課題に出合いました。そこで18年頃から、減塩という課題に取り組み始めました」(佐藤さん)
病気や健康リスクに対応するために必要な減塩生活だが、実際はなかなか難しい。家族のために減塩食をつくっても、「おいしくない」といわれたり、食卓で塩や醤油をかけられてしまうといったこともある。そのため単に、減塩の食材や調味料をつくるだけではだめだと考えた。
10%ルールを使って減塩に対応できる技術を探索する中で、佐藤さんはこれまでにない異分野の技術との掛け合わせを考えた。そんな時、バーチャルリアリティに関する学会で明治大学の宮下芳明教授の味覚や嗅覚の研究に出合い、19年より共同研究がスタートした。
「最初は、電流を流す回路とお箸やスプーンなどの実験機をパソコンにつなげて電流の波形をデザインするところからスタートしました。電流をそのまま流してしまうと金属っぽい味がします。その金属のような電気の味を消しながら、安全に使える電流値を模索していきました」(佐藤さん)
同時に事業化に向けてのヒアリングやデバイスの研究も進めた。22年の共同実証実験の発表時は、エレキソルト スプーンのほか、お椀も用意。さらにお箸なども研究開発が進められた。
実証実験では、エレキソルト スプーンを使うことで平均約1.5倍の塩味を感じるという結果が出た。またリサーチでは、減塩食を食べている人は、ラーメンなどの汁物を食べたいという願望が強いことが分かり、第一弾はスプーンにすることとなった。
「19年からのリサーチでは、減塩中の人がダントツで食べたいものがラーメンという結果でした。あとはお味噌汁などの汁物。これら汁物は体積が大きいため塩分が分散しやすく、減塩しながらおいしく調理することが難しいメニューなんです。そのため『食べること自体を控えましょう』となってしまいがちで、結果としてニーズが高いメニューです。そしてエレキソルトデバイスは、電気を流す技術なので、水分が多いほうがデバイスによる塩味の増強を体感しやすいんです」(佐藤さん)
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