このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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スイスのバーゼル大学や米ロチェスター大学などに所属する研究者らが発表した論文「Optimal time estimation and the clock uncertainty relation for stochastic processes」は、一見ランダムに見える出来事の連続を時計に変換し、その精度を測定する新しい数学的手法を提案した研究報告である。
研究チームは、通常の時計とは異なる自然現象を利用して時間を推定する方法の理論的限界を明らかにした。例えば、海岸に打ち寄せる波の音、人間の心拍、あるいは空を横切る太陽の動きなどが、この時間推定の基礎となりうる。これらの現象は、一見規則的で予測可能に見えるが、正確に測定しようとすると実際にはわずかにランダムに変化する。
研究チームは、これらの現象を「マルコフ過程」と呼ばれる数学的概念で表現した。マルコフ過程は、確率的に発生する「ジャンプ」の連続で構成される。例えば、波が岸に打ち寄せる瞬間や、心臓が鼓動する瞬間がこの「ジャンプ」に相当する。
研究者たちは、これらのランダムなジャンプの記録から時間の経過を推定し、その精度を評価する数学的方法を導き出した。重要なのは、この推定の精度に関する普遍的な上限(Clock Uncertainty Relation、CUR)を発見したことだ。この関係式は、ランダムなジャンプが時間的にどのように分布するかという統計的特性を捉えており、イベント間でどれだけの時間が経過したか、またその時間推定がどれだけ正確であるかの限界を示す。
この方法を使えば、例えば無人島に漂着した人が、周囲の自然現象を観察・記録することで、時間を把握できるようになる。他の分野への応用も期待される。
Source and Image Credits: Prech, Kacper, et al. “Optimal time estimation and the clock uncertainty relation for stochastic processes.” arXiv preprint arXiv:2406.19450(2024).
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