このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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大阪公立大学とスイスのヌーシャテル大学に所属する研究者らが発表した論文「Cleaner fish with mirror self-recognition capacity precisely realize their body size based on their mental image」は、魚(ホンソメワケベラ)が鏡を使って自身の体長を認識し、その情報を戦略的に利用する能力を持っていることを示した研究報告である。
実験では、ホンソメワケベラに対して水槽のガラスに3種類の写真を見せた。その写真は、自身より体長が10%大きい魚、同じ大きさの魚、体長が10%小さい魚を写したものである。最初は、ホンソメワケベラはどの写真に対してもほぼ同じように攻撃的な態度を示した。これは、自分と他の魚のサイズの違いをあまり正確に判断できていないことを示唆している。
ところが、ホンソメワケベラに1週間ほど鏡を見せた後で同じ実験をすると、顕著な変化を観察できた。鏡を見た経験した魚は、自分より大きい魚や同じサイズの魚の写真に対しては攻撃的な行動をほとんど示さなくなった。一方、自分より小さい魚の写真に対しては相変わらず攻撃的だった。
研究者らは、この結果から、鏡を見る経験を通じて、ホンソメワケベラが自分の体のサイズについての正確な心的イメージを形成したと考えている。そのイメージを基準にして、写真の魚と自分のサイズを比較し、攻撃すべきかどうかを判断しているのだという。
特に興味深いのは、自分より大きい魚の写真を見せられた時の行動である。ホンソメワケベラはしばしば鏡の前に行って自分の姿を確認し、それから写真の前に戻るという行動を繰り返した。これは、危険な相手(大きな魚)に遭遇した時に、自分のサイズを再確認して、戦うべきかどうかを慎重に判断しているように見える行動である。
これらの発見は、ホンソメワケベラが単に鏡に映る自分を認識できるだけでなく、その情報を記憶し、必要な時に戦略的に使用できることを示している。つまり、自分の顔や体のサイズについての心的イメージ、そのイメージを基準にした判断、目的を持った行動など、複数の高度な認知機能を持っている可能性を示唆した。
Source and Image Credits: Kobayashi, T., Kohda, M., Awata, S. et al. Cleaner fish with mirror self-recognition capacity precisely realize their body size based on their mental image. Sci Rep 14, 20202(2024). https://doi.org/10.1038/s41598-024-70138-7
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