今回の制限強化で最も影響を受けるのは会社員だ。「iDeCoにも加入している会社員の場合、退職金を先に受け取ってしまうとiDeCoには控除が使えなくなる。逆にiDeCoを60歳で受け取ると、退職金の満額控除には70歳まで待つ必要が出てくる」(村井氏)。退職金を受け取るタイミングを自分でコントロールできる会社員はほとんどおらず、事実上、退職所得控除を二度使う道は閉ざされた形だ。
さらに退職金を先に受け取る場合の制限は一層厳しい。通称「19年ルール」というものがあり、退職金受け取りから20年経過しないとiDeCoの退職所得控除を満額利用できないからだ。55歳で会社の退職金を受け取った場合、iDeCoは75歳まで待たないと控除を受けられないことになる。ただしiDeCoの受給期限は75歳のため、実質的にこの制限を回避するのは困難だ。
一方、自営業者の場合は比較的対応の余地がある。「例えば55歳で事業を廃業して小規模企業共済を受け取り、その後iDeCoを75歳で受給するという選択肢がある」と村井氏。受給のタイミングを調整することで、2つの退職所得控除を活用できる可能性が一応残されているのだ。
拠出限度額の引き上げという改善と、退職所得控除の制限強化という改悪。一見すると矛盾する今回の制度改正は、実は、公的年金だけでは老後資金が賄えなくなっている現状の年金制度をなんとか維持していくという政府の意図が見える。
現状の年金制度は、収入より支払いの負担が大きく、公的年金制度の悪化は避けられない。公的年金だけでは不足する老後資金を賄うため、iDeCoによる個人の資産形成を促したい政府は、2つの施策を同時に打ち出した形だ。1つは掛け金増額による、iDeDcoの加入者増と収入増。もう1つは、一時金での受け取りを抑制し、公的年金の代わりとして年金として長期での受取を促進する狙いだ。
「政府はiDeCoの加入促進を通じて、個人の資産形成を支援しつつ、公的年金の補完として一時金としての受取ではなく年金として活用してもらいたいと考えているように見える」と村井氏は説明する。退職所得控除の制限強化が年金受給には影響しないのも、この文脈で理解できる。
こうした制度変更の流れをどう評価すべきか。「改悪は今後も起こるのではないか」と村井氏は指摘する。実際、今回の税制改正大綱でも、退職所得課税の見直しについて来年度以降の検討課題として明記されている。現在凍結中の特別法人税が復活するのではないかという不安も根強い。
「これは現状の年金制度で避けられない流れ。現役世代か受け取る世代のどちらかが、必ず何らかの影響を受けることになるだろう」(村井氏)。
ただし退職所得控除の制限が強化されても、iDeCoの一時金受け取り時には退職所得として扱われ、控除後の金額を半分にして課税される仕組みは維持される。これにより、通常の所得に比べて税負担は大幅に軽減される。60歳まで引き出せない制約はあるものの、老後資金を蓄える手段としてはNISAを上回る優位性がある」というのが、村井氏の見方だ。
【訂正:2024年12月27日午後1時】 政府の意図を解説する箇所で、一部正確ではない記述があったため修正しました。
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