読者の方が気になるのは、どのくらいの稼ぎがあるのかという点でしょう。多くは、1000〜2000円程度の顧客が多いそうです。最高額案件は、六本木から神奈川県のある都市までで1万1000円程度ですが、総じて、1日の売上は1万数千円から多くて2万円程度だと教えてくれました。
しかし、山野さんは、本音ベースで次のように話します。ライドシェアドライバーは他のアルバイトと比較して割の良い職種ではないと言うのです。
給与体系は所属するタクシー会社により異なりますが、山野さんの場合、車両代や燃料補助などを含め時給2000円です。一般のアルバイトと比べると高いように見えますが、諸経費を考えると東京のアルバイト時給と実質的には変わらないのではないかと予測します。
走行距離が増えることによる車両メンテや故障のリスクに加え、タイヤの摩耗を折り込んだ分析です。「ライドシェアを始める前は、3年ごとにタイヤを交換するイメージでしたが、この様子だと1年ごとの交換が必要になるかもしれません」(山野さん)とこぼします。
特に、Model 3 RWDの純正タイヤであるミシュランのパイロットスポーツ235/45R18は、最安値でも1本あたり3万円前後です。これを1年ごとに交換するのはさすがに負担が大きいでしょう。山野さんは「安価でお勧めのアジアンタイヤがないかとSNSで質問を投げました」と笑います。
タクシー会社によってはドライブレコーダーを自分で準備しなければなりません。また、事故のリスクもあります。タクシー会社はライドシェア事業向けの自動車保険の契約と提供が認可条件となっているのですが、有事の際の対応や精神的なストレスなどを考えると副業としてのコスパは、高いとは言い難いのではないでしょうか。
この原稿を書くために神奈川県のライドシェアの実情も取材しました。筆者自身で日本交通横浜のライドシェアについての説明を受けてきました。業務に関する一般的な説明の後、担当者は驚きの説明をしました。
これはルールで決められていることですが、タクシー会社の規模に応じてライドシェア配車枠の上限が決められています。例えば、神奈川県の場合、金、土、日曜日の午前0〜6時、午後4〜8時にしか働けません。
日本交通横浜のような大手であっても、午後4〜8時のシフト枠は5枠しかありません。1日につきたった5枠です。つまり、日本交通横浜に所属するライドシェアドライバーは、最大で5人しか働けないことになります。
ドライバーはアプリを利用して1カ月先までの枠を予約することができるのですが、「現状はドライバー過多状況で枠は奪い合いになり、1カ月前にすぐに埋まる」(担当者)と明かします。
実際、正式にドライバーとして採用され、事前の研修を受け、いざ乗務開始と奮起しても、現状では、1カ月先までは乗務できないということになります。それも運良くシフト枠を確保できればということです。
さすがに、午前0〜6時の深夜は20枠確保されているそうですが、こちらも夕刻枠との比較でシフトを取りやすいものの、それでも順次埋まっていくようです。
このことを山野さんに話すと、「日本交通横浜のような大手であっても、その程度のシフト枠しか割り当てられていないのであれば、他の会社はもっと少ないと思います」(山野さん)と教えてくれました。
今回の取材を始めた当初は、Teslaを使ってライドシェアビジネスを行うことの悲喜交々をつづる予定だったのですが、山野さんの話を聞いたり、自身での取材を終えたところで、日本版ライドシェアの実情を伝える方が価値ある記事になると思い、その部分の比重が高くなりました。
米国では、副業のライドシェアで月に数十万円をコンスタントに稼ぐドライバーもいるそうです。果たして制度としての日本版ライドシェアは今後どのような方向に進むのでしょうか。ライドシェアでこれだけの制約があるのですから、自動運転のロボタクシーなど夢のまた夢といったところかもしれません。
著者プロフィール
音楽制作業の傍らライターとしても活動。クラシックジャンルを中心に、多数のアルバム制作に携わる。Pure Sound Dogレコード主宰。ライターとしては、講談社、KADOKAWA、ソフトバンククリエイティブなどから多数の著書を上梓している。また、鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」「Alina String Ensemble」などの開発者。音楽趣味はプログレ。Twitter ID: @yamasakiTesla
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