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世界規模で始まる「スマホ関連規制」 各国の規制当局者や事業者が日本に集結、そこで語られたこととは小寺信良のIT大作戦(1/3 ページ)

» 2025年02月11日 10時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

 1月31日、公正取引委員会の主催で、「第1回デジタル競争グローバルフォーラム」が開催された。日本では2022年頃からスマートフォンのOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンを対象に、一部企業の寡占状態にあることが問題視されて議論となっていたわけだが、これを踏まえて24年6月に「スマホソフトウェア競争促進法」が制定された。すでに昨年末から一部施行され、全面施行は25年12月である。

公正取引委員が主催の「第1回デジタル競争グローバルフォーラム」(引用:Mac OTAKARA

 世界でも、いわゆるGAFAMのような超ビックテックの独占的立場を利用した市場への圧力が問題視されている。これまでこうした圧力に対して敏感に反応していたEUはもちろん、GAFAMのお膝元である米国でも度々訴訟が起こされている。

 今回のフォーラムは、日本のスマホ新法の全面施行を控えて、他国における同様の規制の現状と、国際的にどのように連携するのか、また将来のイメージなどを共有するためのものだ。登壇者に規制当局担当者、事業者、有識者を迎え、3つのパネルディスカッションが行われた。

 今回はそのディスカッションで語られた内容をまとめてみたい。

ディスカッション1:デジタル市場における各国当局の対応と国際連携

 ディスカッション1の登壇者は、モデレータを公正取引委員会事務総局 国際課長の河野次郎氏が務め、欧州委員会競争総局 競争J局 次長のトーマス・クラムラー氏、米国連邦取引委員会(FTC) 競争局反競争的慣行II(ACP II)課 次席補佐官のメリッサ・ヒル氏、公正取引委員会事務総局 デジタル市場企画調査室長の稲葉僚太氏、英国競争・市場庁(CMA) 国際担当ディレクターのエレニー・ゴウリウ氏である。

 EUのトーマス・クラムラー氏は、23年から施行されているEUのデジタル市場法(DMA:Digital Market Act)について解説した。

 DMAが制定された背景について、従来の反トラスト執行が「モグラたたき」的なアプローチで時間がかかりすぎることから、展開の早いデジタル市場の課題に対処しきれないという問題があった。DMAは反トラスト法を補完し、より迅速かつシンプルに市場規制を行うためのツールとして導入された。

 DMAの目的は執行の単純化であり、規制対象企業の指定は市場規模ではなく、定量的な尺度に基づいて行われる。現在7社が対象企業として指定され、24のプラットフォームサービスが対象となっている。反トラストの執行と比較して、指定プロセスが迅速に進むことが利点とする。

 義務の順守に関しては、DMAでは法律の中で明確に規定されており、企業が何をすべきかが明確化されているため、議論の必要が少なくなる。また是正措置についても法律で定められており、従来の反トラストよりも適用がシンプルになっている。

 現在DMAで進行中の手続きは2つある。1つ目は「スペシフィケーション」で、企業に対して義務の具体的な実施方法を伝えるもので、Appleとの折衝が進められている。2つ目は「ノンコンプライアンス手続き」で、企業の違反を調査し、是正を促し、必要に応じて罰則を科す。現在、GoogleやAppleのアプリストアにおけるステアリング制限、Googleの検索結果における自己優遇、Metaの個人情報活用の問題などについて調査が進行中である。

 クラムラー氏は、「企業との対話を重視しながらも、順守しない場合には制裁を科す」というバランスを取ることが重要だとした。また、規制当局同士で国際協力し、共通の課題に対処しながら、企業に対して選択肢を提供しつつ、市場の公正性を確保することが目標であると述べた。

 公正取引委員会の稲葉僚太氏は、新たに制定された 「スマホソフトウェア競争促進法」の目的や特徴について解説した。

 新法は、スマートフォンにおける競争上の課題に対して、従来の独占禁止法では迅速な対応が難しいため、新たな法制度として整備されたものである。規制対象は モバイルOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンの4分野に限定し、競争環境を整備し、新しいサービスやイノベーションの促進を目的としている。

 EUのDMAとの共通点としては、競争法を補完する立法であり、大規模な事業者を規制対象とする点とした。一方相違点としては、スマホ関連市場に特化しており、競争環境の整備とセキュリティ・プライバシーの確保の両立を重視したとする。

 今後の課題として、以下の4点を挙げた。

  1. 詳細なルール設計: 法律の目的を達成するための具体的な施策の検討。
  2. 関係事業者との連携:プラットフォーム事業者や利用者との対話を強化し、適切な運用を進める。
  3. 情報提供の促進:事業者が公正取引委員会に積極的に情報を提供できる仕組みを整える。
  4. 体制強化と国際連携:実効的な運用のための組織強化や、海外当局との連携を進める。

 英国CMAのエレニー・ゴウリウ氏は、25年1月1日に施行された新しい「デジタル市場・競争・消費者法(Digital Markets, Competition and Consumers Act:DMCCA)」について説明した。この法律は、大手テック企業の市場支配力を監視し、公正な競争を促進するために導入された。

 新法では、「戦略的市場地位(SMS)」を持つ企業が指定され、特定の競争介入措置の対象となる。これは、大手テック企業による市場独占を防ぎ、中小企業やイノベーターが競争しやすい環境を整えることを目的としている。SMS指定の基準として、世界での売上が250億ポンド以上、またはイギリス国内で10億ポンド以上の売上を持つ企業が対象となる。

 CMAはすでにGoogleの検索および広告サービス、AppleやGoogleのモバイルエコシステムに関する調査を開始しており、9カ月以内に完了する予定である。特にGoogleの検索エンジンは、イギリスの検索クエリの90%以上を占めるため、公正な競争の確保が重要視されている。

 DMCCAの特徴として、デジタル市場におけるモバイルOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンが重要な規制対象となっている点は、日本の規制と共通している。一方異なる点は、事前に詳細な禁止・順守行為を規定するのではなく、SMS企業ごとに状況を個別に調査し、適切な規制を設計するアプローチが採用されている。

 米FTCのメリッサ・ヒル氏は、米国では昨今政権交代が行われたことから、今後状況は変わる可能性があると断わった上で、米国連邦取引委員会(FTC)と司法省がビッグテック企業に対する競争法執行強化の現状について述べた。20年以降、FTCと司法省は、Google、Meta、Amazon、Appleなど大手テクノロジー企業に対して、独占禁止法に基づく訴訟を提起している。

 具体的な訴訟事例としては、以下がある。

  • Google検索エンジン事件:Googleが検索エンジン市場と検索広告市場で独占的な地位を築いているとして、司法省が訴訟を提起。
  • Googleアドテック事件:広告技術市場での独占行為が問題視され、23年1月に訴訟が終了。
  • Meta事件:InstagramやWhatsAppの買収を通じてソーシャルネットワーク市場を独占したとして、25年4月に再審が始まる予定。
  • Amazon事件:オンライン小売市場での独占行為や価格設定ポリシーが問題視され、26年に裁判が開始予定。
  • Apple事件:アプリストアでの料金体系や競合アプリの排除が争点

 デジタル市場では、ゼロプライス設定やユーザーデータの利用など、従来の競争法では対応が難しい問題が多く存在しており、これらに対処するため、既存の法的枠組みを再検討する必要性が議論されている。技術の進化に伴い、競争法執行の在り方も変化する必要があると結んだ。

 フリーディスカッションでは、各国の関連法の体系が違っており、またアプローチも異なることを相互に理解しつつ、国際協力を強化することの重要性が確認された。特にビジネスモデルが世界的に展開されている企業に対しては、各国で一貫した対応を取ることの重要性が強調された。法は違っても目標(競争的な市場を促進すること)は共通しているため、適切な是正措置設計においては協力できるのではないかとした。

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