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世界規模で始まる「スマホ関連規制」 各国の規制当局者や事業者が日本に集結、そこで語られたこととは小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)

» 2025年02月11日 10時00分 公開
[小寺信良ITmedia]
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ディスカッション3:規制下でどう「フューチャープルーフ」を生むか

 フューチャープルーフとは、「将来を見越して、予測しうるマイナスの影響を最低限に抑える方法をデザインするプロセス」、といった意味合いだろうか。

 この回では、東京大学大学院 法学政治学研究科教授のサイモン・ヴァンドゥワラ氏をモデレーターに、オーストラリア 競争・消費者委員会(ACCC)デジタルプラットフォーム課 ディレクターのアンドリュー・フランシス氏、英国競争・市場庁(CMA) デジタルマーケットユニット シニアディレクターのユアン・マクミラン氏、一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF) 専務理事の岸原孝昌氏、Google シニア・コンペティション・カウンシル アジア太平洋地域担当のフェリシティ・デイ氏が登壇した。

 オーストラリアのアンドリュー・フランシス氏は、まだ自国ではビッグテックに対する規制立法はこれからという段階ではあるが、17年からデジタルプラットフォーム市場の調査を実施し、特にApp Store関連の問題や、競争・消費者保護に関する課題に取り組んでいる。独占禁止法、消費者法、メディア規制などを含む新しいデジタル競争制度を提案しているという。

 新制度では、デジタルプラットフォームに対する事前規制を導入し、特定の企業に対する規定や執行メカニズムを整備することで、サービスの透明性や、プライバシー管理、消費者保護などを強化するためのルールを設定する予定。

 テクノロジー業界は急速に変化しており、オーストラリアでもAIの導入や、プラットフォーム間の競争が激化している。一方でGoogle検索のように、長年にわたり市場支配を維持するサービスも存在している。

 こうした市場に対応するため、柔軟性と適応性を持った規制が必要で、国際協力も不可欠であり、他国の良い事例や悪い事例を参考にしながら、将来のリスクを防ぎつつ確実性を確保したいと述べた。

 MCFの岸原氏は、過去iモード上のサービス時代から業界団体の業界規範をベースに展開されてきた日本のモバイルコンテンツ市場の透明化や、青少年保護の歴史について解説した。現在MCFは、AppleやGoogleといったプラットフォーマーとコミュニケーションをとりつつ、経済産業省のデジタルプラットフォーム透明化法の相談窓口を担当している。

 イノベーションを維持しつつ、社会全体の進歩を実現するためには、エンハンスメントと柔軟性のバランスを考慮した当局と業界の「共同スキーム」の考え方が重要だとした。また、企業に対してあるべき規範に誘導するためのインセンティブを、どう設計するかが鍵となると述べた。

 Googleのフェリシティ・デイ氏は、AIの進化がビジネスや研究の方法を変革している中で、規制が将来のイノベーションを妨げないようにする必要があると強調した。

 また矛盾のある規制はかえって競争を妨げる可能性があるため、複数のプラットフォーマ間で一貫した対応が保証されるべきと主張した。そのためには、確固としたエビデンスに基づく介入であるべきとした。

 具体的には、過去Googleマップで実装したある機能は、ユーザーには評判が良かったものの、EUのDMAの規定により削除せざるを得なかった。だがそれを補完する拡張機能がサードパティにより作成され、そのユーザーは10万人以上だという。

 英国CMAのユアン・マクミラン氏は、同国のデジタル市場競争消費者法(DMCCA)における「戦略的市場地位(SMS)」を持つ企業への規制要件は、企業の行動に応じて調整可能だとしており、13の禁止事項は大臣の許可を経て改訂できるといった柔軟性を持つことを強調した。またこのSMSは5年ごとに更新され、法定要件に基づいて適用または取り下げが可能になっている。

 英国のアプローチは、最小限の規制で最大のイノベーションを促進することを重視している。規制が技術の進化に追い付かない場合、不必要な負担が生じるリスクがあるため、柔軟な対応を重要視しているという。

 フリーディスカッションでは、既存の競争法ではどうしても「モグラたたき」のような状態になってしまい、またその執行にも時間がかかることが指摘された。しかし事前規制を導入することで、一貫したルールの適用が可能になり、企業も規制の予測がしやすくなるというメリットがある。

 Googleのフェリシティ・デイ氏は、ユーザーにとって最適な選択が示されることを目的とすべきとした。それがマーケットシェアで判断されるのではなく、ファクトに基づいて競争プロセスが適切に機能しているかをモニタリングすべきと述べた。

 また介入前と介入後の状況を調査し、介入のインパクトをデータドリブンで見ていくべきとした。

本格施行まであと10カ月

 以上、4時間半にも及ぶフォーラムの中身を、日本語同時通訳を頼りにかなり端折ってまとめた。物足りない部分もあるかと思うが、概要はつかめたかと思う。

 「スマホソフトウェア競争促進法」は、基本的に公平さを担保するための業界規制である。従来の業界規制、例えばトラストやカルテルといったものは、消費者に直接的には関係なかった。だがスマートフォンのプラットフォーマーは、消費者と直結している。業界規制は、消費者にダイレクトに関わってくる。その変化を利用するか否かは、消費者の選択に任せられている。

 例えばOS公式以外にアプリストアができたとしても、それを利用するかどうか、あるいは利用したリスクは消費者が負うことになる。こうした「消費者の選択」に言及したのはAppleとGoogleのみであったあたりが、「モバイル業界規制」の課題でもあるように思える。

 規制されるのはApple、GoogleのApp Storeで、外部のApp Storeからのアプリの安全性を確保するのもOS提供者のApple、Googleという立て付けでは、インセンティブがない。これは筆者の個人的な意見だが、MCF岸原氏の「規範に誘導するためのインセンティブが必要」という意見は、逆に言えば今のところインセンティブないですよね、という指摘でもあるように思える。

 本格施行までにあと10カ月余だが、消費者不在のままで規制を始めるのか。モバイル業界は、事業者の公平性を担保すれば、遠回りに消費者利益が自動的に付いてくるというわけではない。0円スマホを廃絶したら国内メーカーの大半が死んだという例もある。もうちょっと消費者と直結した業態であることの理解が、浅いのではないのか。

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