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世界規模で始まる「スマホ関連規制」 各国の規制当局者や事業者が日本に集結、そこで語られたこととは小寺信良のIT大作戦(2/3 ページ)

» 2025年02月11日 10時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

ディスカッション2:企業と規制当局のコミュニケーションの在り方

 ディスカッション2では、森・濱田松本法律事務所のパートナー弁護士 高宮雄介氏をモデレータに、当局と企業間のコミュニケーションはどうあるべきかについて議論が行われた。登壇者は、欧州委員会通信ネットワーク・コンテンツ・技術総局 デジタル市場ユニット ユニット長のフィロメナ・キリコ氏、Microsoft 公共政策部門アジア地域統括責任者のマーカス・バートリー・ジョンズ氏、freeeスモールビジネス総合研究所所長の小泉美果氏、経済産業省 デジタル取引環境整備室長の岩谷卓氏、Apple 競争法及び規制統括シニア・ディレクターのショーン・ディロン氏。

 欧州のデジタル市場法(DMA)において、フィロメナ・キリコ氏が企業との対話のプロセスについて説明した。DMAでは企業のコンプライアンスを確保するため、規制当局との対話を敵対的なものではなく、協力的な関係を基盤としているという。

 コンプライアンス確保の手段としては、企業は年次のコンプライアンスレポートを提出し、公表可能な情報を提供すること、コンプライアンスワークショップやテクニカルミーティングを通じて、企業が直面する技術的、商業的な課題を解決するための対話を行なう事、問題がなくても継続的にコミュニケーションを取ることなどが求められている。

 また内部告発者ツールにより、匿名で保護された形での情報提供を可能にするなど、表面的な対話のみに依存しない仕組みも構築されている。

DMAの公開資料

 freeeの小泉氏は、いわゆるスモールビジネスのフィンテック企業として、規制当局とどのように対話していくかについてまとめた。同氏は総務省に12年の勤務経験があり、その点でも官公庁との折衝の方法を心得ている。

 多くの企業では、内部管理部門にコンプライアンス担当を置くことが一般的であるが、フリーでは1.5線のポジション(第一線の次)にコンプライアンス担当を配置し、迅速な対応を可能にしている。特にデジタル分野では法規制が変化のスピードに追い付いていないため、プロダクト開発と並行してコンプライアンスを確保することを重視している。

 またスモールビジネス事業者の声を制度に反映させるための取り組みとして、法律が時代遅れになっている部分があれば積極的に政府に提案を行うことや、当局側と民間企業の相互理解の重要性を強調した。

freeeの公開資料

 経済産業省の岩谷氏は、同省が所管するデジタルプラットフォーム取引透明化法を通じた事業者とのコミュニケーション例を報告した。同法は21年に制定され、オンラインショッピング、アプリストア、デジタル広告の3分野を対象としている。

 同省では、上記3分野それぞれに対して相談窓口を設置し、利用事業者の問題解決を支援しているが、特にデジタル広告分野での認知度不足が課題であるという。

 問題解決には業界の構造や慣習を理解することが重要だが、特にデジタル広告のバリューチェーンは複雑であり、広告主の慣習を踏まえた対策がプラットフォーム側との相互理解を深める上で重要だとする。

経産省の公開資料

 Microsoftのマーカス・バートリー・ジョンズ氏はビックテックの立場から、テクノロジーや規制の課題に対処するには、規制当局・企業・ユーザーが「全体像」を共有することが不可欠であるとした。さらに規制当局と企業内担当者だけでなく、エンジニアやマーケティングチームなど多様な関係者を巻き込み、マルチステークホルダー型の協働を推奨する。さらには当局との「恐怖ベース」のコミュニケーションから脱却し、企業と規制当局の間で信頼関係を構築することを優先すべきとした。

 加えて世界的にビジネスを展開している立場として、アジアやEU、インドなど多言語環境では、文書のみのやりとりでは誤解が生じやすいとする。このため、翻訳者や文化の橋渡し役が重要であり、要請や質問を正確に理解するには時間を要するとしている。このため文書ではなく、顔を合わせての直接のコミュニケーションが不可欠であるとする。

Microsoftの公開資料

 同じくビックテックであるAppleのショーン・ディロン氏は、Appleにとって日本は重要な市場であると位置付けており、またプライバシーとセキュリティに関しても独自の戦略を取っていると強調した。

 その上で、Appleは特に消費者からイノベーションを強く求められる立場にあり、法規制には明確性と透明性、そして「予見可能性」が重要とした。またプラットフォームを活用して成功を収めた立場として、「規制当局が消費者の意見を聞くこと」が重要との見方を示した。消費者のニーズを理解し、それに対応することが優先されるべきと述べた。

Appleの公開資料

 フリートークでは、freeeの小泉氏が省庁との付き合い方として、Microsoftのマーカス・バートリー・ジョンズ氏の言うように、全体像を伝えることが重要とした。ともすれば民間の個社同士の問題として取られることもあり、その業界全体のエコシステム、個々のビジネスモデルの違い、テクノロジーの部分も含めてどういった変化があったのかというところを整理して伝えることがポイントとした。

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