第2問は、実際に社会でありがちな題材から考察する問題で、A, B2つ、配点は30点である。
Aは会員制度を持つスーパーマーケットの、レシートに印字された情報の行方を問う問題となっている。会員制度ゆえに個人情報を保持しており、それと購入物との関係を見ていくわけだ。こうした会員制度は大人には慣れたものだが、決済手段を持たない未成年は会員になれないというサービスも存在する。ちょうど高校生ぐらいだとその境目になるわけで、大人ほどにはなじみのない問題だったかもしれない。
情報の流れと商品の流れをイメージさせる問題もあり、プログラミング的知識と言うよりは、SIer寄りの考え方が問われた。一方個人情報の利用に関するリテラシーという側面からでも解答できる、良問だといえる。
Bはメンバー10人からの集金に対するお釣りをどうするか、というところから始まるが、実際にはこうしてシチュエーションは問題を分かりやすくするための仕掛けで、本質は、シミュレーションデータの読み解きである。
AもBも具体的な状況がイメージできることから、点が取りやすい問題だっただろう。
第3問は、文化祭用に部活で工芸品を作るというシチュエーションで、3つの問に答える問題だ。配点は25点。
問1は条件整理であり、続く問2と3の基礎となる。問2と3はプログラミングのように見えるが、実際にプログラミングできるかを問うものではなく、条件分岐を適切に考察できるか、変数を使って条件を整理できるかといった、プログラミング的思考を問う問題である。
教科としての情報Iでは、実際にPCを使って実動するプログラミングを行う授業もある。プログラミングの面白さは、自分が考えて工夫して作ったものが実際にコンピュータ上で期待した通りにちゃんと動くというところにある。そこには、エラーがあることによるフィードバックという学びも含まれる。これには「通らなかったものが通る」という、詰まったパイプを掃除して水が流れ出すみたいな快感があるわけだ。これにより、自分にできるとは思わなかったレベルにも挑戦できる。
こうした学びを試験問題にするとこうなる…というのは分かるのだが、音楽のテストを紙鍵盤でやるみたいなもどかしさは感じる。現状は仕方がないとはいえ、紙ではなくもう少し実践に近い姿で実施できたら、面白い試験になっただろう。
話は少し脱線するが、世界経済フォーラムが25年1月に公開した「仕事の未来レポート2025」というのがある。世界の主要雇用主の視点から、今後5年の間に労働者に求められるスキルをまとめた調査報告書だ。
これによれば、2030年にはプログラミングのスキルはOut of Focus、つまり重視されないものと考えられている。一方で重視されるコアスキルは、AIやビッグデータの扱い、技術的リテラシー、創造的思考、あるいは柔軟性や対応力となっている。
つまり第2問のような問いはその傾向に沿うが、第3問のような問いは今後あまり重要視されないスキルではある。今後プログラミングは、AIによって効率化するとともに、人間がやる業務ではなくなっていく可能性が高い。プログラミング的な能力は基本ではあるのだが、それをどこまで学習させるべきかは悩ましい。
そもそも学習指導要領は10年に1度しか改定されないので、こうした喫緊の社会転換に対応できない。学生には、さほど必要とはされないプリミティブな知識を延々を問い続けるようなことになりかねない。「知的ホビーとしてのプログラミング」は残るだろうが、全員がこの問題が解けるレベルである必要は、なくなってきている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR