ソフトウェアベースで放送システムを構築していこうというソリューションは、すでにいくつかある。Panasonicの「KAIROS」はソフトウェアスイッチャーであるが、ライブ対応という点では方式変換やマルチモニター対応も含め、ライブシステムのハブとして利用するという流れもできてきている。
昨年12月にお伝えしたソニーの「Contents Production Accelerator」はまだ現物がないが、オールインワンパッケージでライブ放送ソリューションをSaaS化していこうという考え方である。
GlassValleyの「AMPP」では、スイッチャーやミキサーをモジュール化して、それを接続する形でシステムを構築する。AMPPは基本的にクラウドベースで、オンプレでも動きますよ、というスタンスだ。
一方FOR-A IMPULSEは、AMPPよりもっと細かい単位に機能を分けてノードを用意し、カスタマイズを容易にした点で違いがある。まずはオンプレミス版からスタートし、今後クラウド版にも展開するという点でも、アプローチに違いがある。
日本の放送局はセキュリティに対して厳しいことから、局によってはクラウドへ接続するのを嫌うところもあれば、一部分であればクラウド接続もやむなしといった考え方の局もある。どちらでも行けるようにするには、オンプレミス版から仕上げるというのは妥当である。
FOR-Aではすでに23年からIMPULSEのプロトタイプを持って一定の放送局などを巡ってヒアリングを行い、機能を練り上げていった。スポーツライブで昨今好まれる「スティンガー」、リーグロゴなどをあしらった画像はめ込みの転換を経由してリプレイへ行くといった機能も、顧客からのリクエストから実装されている。
そもそもスイッチャーが総体で1つのノードになっているわけではなく、クロスポイントやキーヤーの機能が個別のノードになっているので、ある意味やりたい効果を前提として、スイッチャー自体をパイプラインによって組み上げるようなスタイルになっている。またコントロールは従来のハードウェアパネルで操作する事もでき、ハードウェアパネルに慣れたオペレーターの手早いスイッチングにも対応できる。
FOR-A IMPULSEのメリットとしては、やはりこれまでいくつも機材を用意しなければならなかったフォーマット変換や色域変換など、たくさんの専用コンバーターを用意して結線するというコストと手間から解放されることが大きい。
FOR-A IMPULSEには管理ツールとして、FOR-A IMPULSE Managerがある。これにより既存のリソース管理予約システムと連携し、他社製ハードウェア製品と組み合わせてシステムを拡張することも想定されている。
またメーカーサポートの効率化も重要なポイントだ。ハードウェア製品では、都内ならサービスマンが向かうことになるが、地方では代替機を送って入れ替えてもらったり、サービスマンが出張対応になるため、即時対応が難しかった。ただ現場は生放送であり、日時が決まっていることから、こうした対応の遅れは致命傷になりかねなかった。
一方FOR-A IMPULSE導入後は、現場での使用状況がサポートセンター側で確認できるため、トラブルシューティングも即時対応可能になる。以前のようなハードウェアベースではないので、一部のボードが壊れたといった細かい故障は無くなることから、ユーザーから上がってくる問題の質や、それに対応するサポートの内容も変わってくる事だろう。
今回はInter BEEの機会に詳しい話を取材したが、ソフトウェアスイッチャーをメインに据えるのではなく、むしろスイッチャーが他メーカーになっても、周辺機器は多数のFOR-A製品があり、それをFOR-A IMPULSEで一元的にまとめる、という印象を持った。従来のようにスイッチャーを中心としたシステム構築ではなく、周辺機器側からシステムを組み、むしろスイッチャーは何に入れ替わっても同じ操作性とUIで対応できる、という考え方である。
こうしたソフトウェアシステムのオペレーションは、現代のサブの中とはかなり変わったものになる。壁全体に大量のラインモニターが設置されているようなサブは姿を消し、いくつかの大型ディスプレイにマルチ画面を投影したものを見ながら、オペレーターの手元にはPCしかない、という格好になるだろう。
操作する機材のUIはブラウザ経由で操作するだけなので、高性能なPCは必要ない。画面が大きなChromebookや、iPadなどのタブレットになる可能性もある。
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