昨年ぐらいから急速に見知らぬ番号からの迷惑電話がかかってくるようになった。最初は国内からと思われる「0120」で始まる営業電話が主だったが、次第に国際電話による迷惑電話に変わってきた。連絡先リストに載っている番号以外は着信音が鳴らない設定にしている人も多いと思うが、留守番電話機能に残されたメッセージを再生すると、中国語の音声案内だったりする。
ただの営業電話であっても、デタラメにかけてくる感じでもなく、どこからか、あるいは何かのきっかけで、自分の電話番号が漏えいしたものとみられる。さらには詐欺電話にうっかり出ようものなら、「この番号は脈あり」としてマーキングされてしまい、さらなる詐欺電話がかかってくるという悪循環である。
詐欺電話としてニュース等で話題になっているのが、警察をかたるものである。「あなたに逮捕状が出ている」などとして、示談金を要求するものである。そもそも警察が直接示談交渉をするはずがないのだが、 慌ててしまうところを突いてくるわけだ。
一方で警察署からの電話なら、末尾が0110であるということが広く知られるようになった。詐欺側もそれに対応し、どこかからか末尾0110で終わる番号からかけてくるようになった。さらにはNHKが報じたところによれば、実在の警察署などの代表番号をかたる電話が1400件余もかかっているということが明らかになった。警察でも調査しているが、現在もその手口は分かっていないという。もっとも、分かったとしても情報公開はされないだろう。
電話番号の偽装は、古くて新しい問題だ。すでに20年も前から番号偽装問題は起こっていたが、これは当時の携帯電話が、異なるキャリアをまたいでの通話の場合、発信元の番号をチェックしていなかったからである。また海外には、発信者番号を任意のものに指定できるサービスが存在していた。コールバック先の電話番号を指定するためである。詐欺電話の横行によりこれを問題だとした携帯事業者が、発信元番号のチェックを行うようになったことで、一時は沈静化した。
だがまたあらたな手段が発明されたということだろう。しかし20年たって同じ問題が再燃してた今、われわれの捉え方は当時とは変わってきている。
電話回線網につながっていたケータイの時代は、連絡手段はキャリア通話かメールに集約されていた。しかしスマートフォンが主力の現在においては、通話以外の連絡手段が山ほどある。
テキストメッセージの世界では、家族や親戚のやりとりはLINEで、仕事のグループメッセージはSlackで、友人関係とのやりとりはInstagramやFacebookメッセンジャーで行うなど、なんとなくのすみ分けが行われた。メールはもはやレガシーな手段だが、企業からのオフィシャルな情報はいまだにメールで送られてくる。
音声通話にしても、LINEやメッセンジャーで十分だ。電話番号による通話は、むしろ関係性の薄いビジネス上や私的な関係で用いられる。例えば宅配便の集荷依頼や再配達連絡、飛行機や宿の急な予定変更といったことだ。オンラインでもできるが、時間が無いので電話で確認した方が確実、という判断はあり得るだろう。だがそれらはいずれも、こちらから発信する場合である。
いっぽう着信が必須、というケースがどれぐらいあるだろうか。飛行機やホテルの予約では緊急連絡先として電話番号を入力させられるが、実際に電話がかかってくるケースは少ない。なにかのサービスの入会においても電話番号を入力させられるが、それが実際に使用されることはほとんどない。
それ以外の用途としては、電話番号ベースのSMSによって本人確認を行うケースがある。これは電話回線契約が本当に生きているかを確認するためである。一般の事業者が、キャリアに対して電話番号による所有者確認ができるわけではない。
キャリアが電話番号にひも付いた個人情報確認を提供するシーンとしては、SNSの利用に関する年齢確認がある。SNS事業者が、入会時に申請された電話番号に基づいて、使用者の年齢確認を申請する。例えば18際以上でなければ利用できないサービスであれば、キャリアに「18」と問い合わせれば、キャリアは紹介年齢より上か下かだけを返答する。キャリアは回線契約時に、契約者および利用者の年齢確認を対面で行っているからである。
通話はリアルタイムでお互いの時間を拘束するので、双方の都合が付かなければ機能しない。メール等によるテキスト時間差メッセージで問題なくビジネスが回ることが発見された21世紀初頭から、リアルタイム通話は「必須」とはされなくなっていった。これは仕事のスタイルが、コミュニケーション/コンセンサス偏重型を脱却し、タスク型へと変容していくきっかけにもなった。
だが一部の業種には、いまだ通話がメインのところもある。例えば農業や建築業など、常に手袋などをして両手がふさがっている人達にとっては、手放しで会話できる音声通話でなければ、作業中は返事が返ってこない。しかしこれは電話回線による通話でなくても構わない。LINEでもなんでも良いわけだ。
一方で高齢者相手の不動産業務などは、固定電話でなければらちが明かないことも多い。仮にLINEでもいいという事になっても、一度も会ってもいない相手とLINEで友だちになる方法がふさがれているという問題がある。これはメールにおける関係性の薄いビジネス上の関係と同じで、数字を伝えるだけで連絡が取れるというレガシーな方法だからこそ、成立する。
従ってこの問題は、音声通話は必要かという観点ではなく、性善説に基づいたシステムの限界という観点で考えるべきだろう。
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