退職者が退職日に会社のデータを削除した──そんな裁判例がX上で話題になっている。徳島地方裁判所は5月12日までに公開した文書によると、原告となったのは、青色半導体レーザー分野で大きな世界シェアを持つとある会社で、被告はその元従業員やその家族。被告は削除プログラムを使い、会社のサーバ内にある電子ファイルを削除して損害を与えたとしていた。
元従業員である被告Aは、2021年7月31日に原告の会社を退職した。最終出社日は6月30日だったがその前日29日に、会社の共有サーバ内のファイルと自身を削除するプログラムを作成。「バルス」という名称で予行用バッチファイルを作成した後、改めて「cleaner.bat」という名称のバッチファイルを作った。
その後、被告Aは自宅PCから会社の共有PCにリモート接続し、退職日7月31日にcleaner.batが起動するように設定。同日にこのバッチファイルが起動し、共有PC内のファイルの削除を実行した。削除されたファイルは、被告Aが業務中に作成したもので、232のフォルダ内に保存されており、実験装置の操作手順書や資料、実験データなどが含まれていた。
なお被告Aは、引き継ぎ指示を受けていたファイルは、一部の操作手順書とファイルで、これら以外のについては引継不要とされていたと主張。そのため、それ以外を削除しても原告の利益を侵害したとはいえないと指摘する。また、ソフトウェア関連資料もあったが、これはライセンス規約上、商用利用できない開発環境のもとで作成したものだった。原告がこのまま使えば、原告や被告Aが莫大な損害賠償義務を負いかねないものだったと続けている。
一方で原告側は、削除したファイルは、被告Aが在籍中に行った業務の成果物のほとんどであり、それらを故意に消滅させたと主張。ファイルが消されたことによる再開発費などの支出(767万7500円)や、被告Aの給与相当額(1813万7285円)など計2581万4785円の損害を被ったと訴えた。このため、被告Aには不法行為として、また身元保証契約に基づき被告Aの妻や母にも損害賠償を求めた。
徳島地方裁判所の判断は、被告Aたちに連帯して577万4212円と、その起算日である21年7月31日から支払済みまで年3%の遅延損害金を原告に払うよう命令。原告のその他の請求については棄却した。
徳島地方裁判所は被告Aの削除行為について「原告の管理する共有サーバ内に保存していたものであるから、各ファイルに関する利益は、削除されたファイルの財産的価値を否定すべき特段の事情がない限り、原告の法律上保護される利益」と指摘。被告Aの行為は故意によるものだとも認め、被告Aの不法行為や債務不履行が成立し得ると判断した。
一方、給与相当額の損害賠償については「労務を提供していたといえ、その対価として給与等の支払を受けていたのであるから、原告が被告に支払った給与等自体が損害になるとは解されない」とし、削除された成果物の復旧費に関してのみを損害賠償として認めた。
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