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各社出そろうも、コンテンツ不足の8Kカメラ 真の価値は“4Kの自由度アップ”に小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(1/2 ページ)

» 2025年06月04日 17時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

 今年3月、パナソニックは同社LUMIXのフルサイズモデルSシリーズの最上位機種として、8K解像度で動画撮影が可能な「S1R II」を発売した。これで国内主要カメラメーカーからは、すべて8Kモデルが発売されたことになる。

 とはいえ、各社とも発売タイミングがバラバラだったこともあり、8Kというソリューションをどう使っていくのか、その思惑もまた違っているのではないかとも思える。

 8Kという解像度に注目が集まったのは、2019年ごろである。当時東京オリンピックを20年に控え、NHKでは過去最大規模となる8Kライブ放送を計画していた。ところがご存じのように20年初頭から始まったコロナ禍の影響を受けて、東京オリンピックは21年へと延期になった。さらには日本各地で予定されていた8Kのパブリックビューイングも、3密を避けるということで多くが中止となった。東京オリンピックを契機に8Kを軌道に乗せるという思惑は、幻と消えた。

 8K関連機器を企画・製品化するメーカーは、転換を余儀なくされた。

運命の2020年

 8Kで先頭を走っていたのは、「アストロデザイン」だった。05年の愛知万博でNHKが8Kソリューションを展示することになったのがきっかけで、8K関連機材の開発をスタートしている。17年にはシャープと協業で業務用8Kカムコーダ「8C-B60A」を製品化した。

業務用8Kカムコーダ「8C-B60A」

 シャープは19年にも、ミラーレス型の「8C-B30A」をCESで発表した。マイクロフォーサーズで8Kという、独自開発センサーがウリだったが、結局一般発売には至らなかった。

2019年のCESで展示された「8C-B30A」

 業界内では会社としての体力やカメラ販売のノウハウ不足も聞かれたところだが、20年3月頃には東京オリンピックの延期が決定し、テレビも含めた8K商品戦略全体が見直されることとなった影響は、小さくなかっただろう。

 レンズ面でも、マイクロフォーサーズで8Kはなかなか厳しい。そもそもマイクロフォーサーズは小型・軽量がウリのシステムであり、レンズも8K解像度に対応できるものは少ない。またシネレンズも少ない。レンズバリエーションという点で考えれば、シネレンズが多いスーパー35(APS-C)かフルサイズが現実的だろう。

 このオリンピック1年延期は、AV家電メーカーにとっては戦略の見直しを余儀なくされたが、映像制作業界では一部好意的に受け止められたところもある。20年の段階ではまだ8Kの準備が間に合わないが、あと1年猶予ができたことで間に合うかも、といった期待もあったのは事実だ。

 フルサイズミラーレスでいち早く8Kに対応したのは、キヤノンだった。20年7月に発売された「EOS R5」だ。キヤノンにとって、「5」は特別な数字である。そもそもデジタル一眼で映画のような動画を撮影するというソリューションを生み出したのが、「EOS 5D Mark II」だったからだ。

 最初に登場したミラーレスタイプの8Kカメラということで、後処理でいろいろやることを念頭に置いた作りとなった。8K UHDサイズ(7680×4320)だけでなく、8K DCIサイズ(8192×4320)の2種類の8Kモードを搭載している。また8K DCIではRAW記録にも対応したほか、両8KフォーマットでAll-Intraフレームでの撮影もサポートした。フレームレートは29.97、24、23.98に対応した。

 つまり本来なら20年の夏に火が付くはずだったテレビ8Kだけにフォーカスせず、デジタルシネマにも対応できるようにという配慮が見られる。ただこれはタイミング的に見ても、東京オリンピック延期はあまり関係なく、最初からそういう商品企画だったものと思われる。キヤノンはテレビ事業を持っておらず、シャープのように8Kテレビとの連動性に重点を置いていない。

 実際22年3月には、これをベースにしたシネマカメラ「EOS R5C」を商品化している。つまりR5は静止画カメラのフラッグシップというポジションで、これで8K動画のマーケットを探る前哨戦的な意味合いもあったのだろう。24年8月には「EOS R5 MarkII」も登場している。

 キヤノンの面白いところは、フラッグシップだから8Kが撮れるというわけではないところだ。24年に登場した「EOS R1」は、6Kのカメラである。

 キヤノンから半年ほど遅れて8Kカメラに参入したのが、ソニーである。21年3月発売の「α1」は、ミラーレスの主力モデル「α7」とは違うフラッグシップモデルとして登場した。

 キヤノンのR5と違うのは、8KはUHDサイズのみで、DCIサイズには対応しなかったことだ。また記録は4:2:0/10bitで、同社得意のH.265ベースのXAVC HSとなった。映画向けのカラーグレーディングや合成を前提とした作りではなくビデオ向け、さらに言えば、Vlog向けの作りとなった。

 元々カラートーンが選べるピクチャープロファイルという機能は搭載していたが、これとは別の独立した機能として、10種類のルックが選べる「クリエイティブルック」を搭載した。この機能はのちのフルサイズVlogカメラ「ZV-E1」にも継承された。

 つまりミラーレスでは本格的にテレビやシネマに使うのではなく、「シネマのように見える8Kの自前コンテンツを作る」という方向に振ったということである。

 21年には同社シネマカメラ「VENICE 2」で8Kモデルをリリースしている。もちろんα1をサブカメラとして使用することも念頭に置いて、Log撮影も可能になっているが、プロとコンシューマを中途半端に混ぜないよう、切り分けしている。

 22年には「α7R V」で8Kをサポートした。ただし24Pのみであり、この時点ですでにテレビ8Kは念頭に置いていない。24年12月には「α1 II」をリリースし、8K 4:2:2/10bitの記録に対応した。

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