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各社出そろうも、コンテンツ不足の8Kカメラ 真の価値は“4Kの自由度アップ”に小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(2/2 ページ)

» 2025年06月04日 17時00分 公開
[小寺信良ITmedia]
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東京オリンピック後の8K

 結果的に東京オリンピックは21年夏に行なわれたわけだが、ニコンが同年12月にリリースした「Z9」は、静止画撮影のフラッグシップでありながら、8K UHD/60p(12bit)のRAW動画の内部記録に対応した。

縦撮りグリップもあるNikon Z9

 とはいえ縦撮りにも対応する大型カメラなので、動画カメラとしてはいささか取り回しに不便である。本格的な8K動画対応機は、23年5月の「Z8」だと考えるべきだろう。Z8では新たに8K DCIにも対応し、60PのRAW12bit撮影にも対応した意欲作だ。今のところこれを超えるミラーレス機は出ておらず、これまで動画ではあまり評価されなかったニコンが大きく注目されるきっかけとなった。

本格8K動画機、Nikon Z8

 また人物撮影機能にフォーカスしたのも特徴的だった。世界最小サイズの顔を検出するという被写体検出機能を搭載したほか、美肌モードも3段階、さらには肌色だけを検出してトーンをいじれる人物印象調整機能も搭載した。

 基本的にはLogで撮影してカラーグレーディングするカメラだが、内部にLUTを読み込んでそのまま記録するような機能は搭載しない。その代わりSDR撮影では、ピクチャーコントロールだけで28種類も選べるといった作りになっている。

 つまり8Kカメラではあるが、HDRなのかSDRなのかでワークフローを大きく分けている。シネマやテレビといった枠に当てるというより、ユーザーのレベルに合わせて色々使えるように幅広く設計したということだろう。

 22年9月には、フジフイルムからAPS-Cサイズの8Kカメラ「X-H2」が登場している。8K30pで160分の撮影が可能な放熱構造を持ち、さらに専用冷却ファンまで発売するという念の入れようだ。ただし解像度は8K UHDのみで、DCIが撮れるのは4Kからだ。

 8Kでは珍しいAPS-Cサイズだが、同社にはXマウントレンズのラインアップが充実しており、APS-Cのシネレンズまである。

 これに続く8Kカメラは、23年9月発売の「GFX100 II」という事になる。フルサイズをすっとばして中判に行ってしまった。8K DCIで撮れるが、センサー範囲はかなり小さくなるため、8Kの主力機というわけではない。

 先にも述べたところだが、今年3月にはパナソニックが同社LUMIXシリーズとして初の8Kカメラ、「S1R II」を発売した。元々フルサイズミラーレスの初号機は19年に「S1」と「S1R」の2モデルが登場しているが、上位モデルのS1RのMarkIIという位置づけである。

 8K UHDのほか8K DCIサイズにも対応した。システム周波数でNTSC(59.94Hz)、PAL(50Hz)、CINEMA(24Hz)の切り替えがあり、フレームレートはNTSCでは8K/29.97と23.98pだが、CINEMAに切り替えると24pで撮れる。このことから、放送向けとデジタルシネマ向けの両方に目配せしたカメラと言えそうだ。

 ただ記録は4:2:0のLongGOPで、フォーマットはMOVかMP4になる。MP4ではDCIサイズでは撮影できないため、MOVがメインとなる。他にもProRes撮影も可能だが、こちらは最高で5.8Kからとなる。8Kでシネマも撮れるが、合成などはやらないライトユースを念頭に置いた作りとなっている。

 この背景としては、東京オリンピック以降で明らかになった8Kというフォーマット失速の影響があったと見るべきだろう。8Kフォーマットずばりのコンテンツを作るというニーズが薄まったことで、むしろ4Kフォーマットに対してオーバーシューティングすることでメリットを出すという方向にシフトしたという事だ。

 つまり8Kで撮っておけば、縮小して4Kにすれば画素が詰まって解像感が上がるし、1/4サイズまでクロップしてもまだ4K解像度が確保できるというメリット、である。

 こうした方向性は、意外にもBlackmagic Designのシネマカメラに顕著だ。同社のラインアップはHD・4Kからスタートしたが、その後は6Kときて、8Kを飛ばして12Kとなった。6Kは明らかに4Kコンテンツに対してのオーバーシュート、12Kは8K及び4Kに対してのオーバーシュートという事である。

 切り出しという点においては、ソニーのα1 IIでは被写体を認識して自動的にクロップしてフレームを切り出し、画面内に写っている限りは自動で追従するという「オートフレーミング」という機能が搭載されている。

 またパナソニックのS1R IIでは、クロップした2点間を設定すると、その間をなめらかに移動してくれる「ライブクロップ」という機能が搭載されている。

 こうした機能は、8Kという解像度や領域をフルで使うのではなく、切り取って利用していくという考え方である。こうした機能は、以前から360度カメラでは存在した。全天球の撮影結果をそのまま使うのではなく、一部を切り出してコンテンツ化するわけである。24年発売の360度カメラである「Insta360 X4」では、全天球の8K解像度の映像からの切り出しを行なう事で、「切り出しても高解像度」を実現した。これもある意味8Kソリューションである。

 20年頃までは、8K素材をダイレクトに編集するのも、なかなか厳しかった。よってプロキシを作成して編集するような、かつて4Kの編集が重たかった時代に逆戻りしたかのようなワークフローだった。だが20年末にAppleがM1チップを開発し、以降M1 Pro、M1 Max、M1 Ultraとハイエンド化していったころから、8Kのダイレクト編集にも対応できるようになっていった。

 現実的には、コンテンツは4K納品が圧倒的に主流である。一方デジタルシネマでは、一部8Kマスターの制作が行なわれており、ときおり8K上映会のようなイベントが行なわれている。

 一方個人で所有するディスプレイやプロジェクタで8K対応製品を所有している人は一部に限られており、8Kコンテンツが供給されても実際にその解像度で見られる人は少ないのが現状だ。ゲームの世界ではソニー「PS5 Pro」がゲームの8K出力に対応しているところだが、8K対応ゲームが少なく、現在はビッグタイトルのアップデート待ちである。

 8Kカメラの現実は、4Kコンテンツのクオリティを上げるためのアッパーフォーマットとしての用途がメインとなっている。そういう意味では、映像制作現場では8Kを扱う機会は今後増えていくだろうが、一般の人が8Kコンテンツを気軽に見られるのは、映画館ぐらいで十分だろう。

 「一般家庭に8K」は、あまりにも急ぎすぎた夢だった。

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