他方で、そうした機能を「まだ小さな変化」と感じる人が多いだろう、というのも否定できない。実際のところ、スマホの上のAI機能はまだまだ小粒であり、ある種のキラーアプリが不在の状態である、ともいえる。
だが、「キラーアプリ不在」はAppleだけの話ではない。他社のスマホでも同様だ。メールからスケジュールへ予定を正確に登録する、ということにすら、AIはまだ苦労する部分がある。「AIにお願いすればスマホの上でやりたいことがどんどん終わる」状況ではない。
ここに存在するのは、スマホの上で動くオンデバイスAIと、クラウドで成長する最新のAIとのギャップだ。
毎日のようにニュースを賑わす「AIの進化」は、クラウド上で動く、負荷の大きなAIの世界の話である。性能は高いものの、通信が必須で処理遅延も大きい。人間に変わってソフトウェアを作り上げるまでに至った能力の進化は、感嘆に値する。米OpenAIや米Google、米Anthropicといった企業はそこでしのぎを削っているが、Appleはそのグループにはいない。
一方、こうしたクラウド上のサーバへの負荷も大きく、一定以上の処理をするには利用料金を支払うのが一般的だ。プログラマーやAIの開発者であれば月額20ドル、ときには250ドルといったコストも「十分に払う価値がある」と思うかもしれないが、世の中で暮らす大半の人々にとっては、お金を払うまでには至らない。ネット検索の進化版のような感覚で、ChatGPTやGeminiになにかを聞いてみたけれど......というくらいではないだろうか。
スマホの中に入っていれば無料で使えて、プライバシーを堅守し、OSの機能にも深くインテグレーションされているもの。それが、デバイス内だけで動作する「オンデバイスAI」の価値であり、スマホOSに組み込んでしまうということの意味である。AppleはあくまでオンデバイスAIに賭けており、クラウドのみで動くAIには注力していない。
クラウドにはコストと即応性という課題があり、オンデバイスAIには「賢さ」「開発速度」という課題がある。AIという意味では同じだが、双方は相反する部分がある。
重要なのは、いわゆる「キラーアプリの定着」であり、それをどこが先に実現できるかだ。
先日、OpenAIの個人向けハードウェア進出が話題になった。どのような製品になるかはまったく分からないが、「AI」と「個人向けハードウェア製品」と「OS」は、ITプラットフォーマーとして三種の神器のような存在になってきた。AppleとGoogleは3つとも持っており、強みとするところに差がある。OpenAIは個人向けハードという武器を準備しつつある。
その中でどこがどのバランスで勝つのだろうか。過去の歴史を見れば、美しいUIやアプリストアも、AIと同じくらい重要な価値を占めると判断できる。
そういう見方をすると、「クラウドAIでは確かに遅れているが、そんなにシンプルな切り口で判断はできない」という気持ちになってくるのだ。AppleはWWDCの中で、Apple Intelligenceをデベロッパーがアプリの中から活用する方法をアピールした。そうやって「キラーアプリ登場」を促すのもまた、開発者会議の重要な使命である。
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