このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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米タフツ大学に所属する研究者らが発表した論文「In vivo bioengineered tooth formation using decellularized tooth bud extracellular matrix scaffolds」は、豚と人の細胞を混ぜて培養した生きた人工歯を提案した研究報告だ。
歯を失った際の治療法として、現在はチタン製のインプラントが広く使われている。しかし、インプラントにはいくつかの課題がある。天然の歯は歯根膜という組織を介して顎の骨とつながっており、かむ力をクッションのように吸収・分散させる仕組みを持っている。
一方、インプラントは金属が直接骨に結合しているため、かむ力がダイレクトに骨に伝わってしまう。その結果、長期的には骨吸収(骨が減少すること)が起こりやすく、インプラントの予測生存期間は約15年とされている。さらに、インプラント周囲炎という炎症のリスクもあり、適切なメンテナンスが欠かせない。
この問題を解決するため、生きた組織から構成される歯の開発が進められている。今回の研究では、豚の歯の元となる組織(歯胚)を特殊な処理で細胞だけを取り除き、骨組みだけを残した型を作製した。
この型に、ヒトの歯髄から取った細胞(ヒト歯髄細胞)、豚の歯の細胞(豚歯胚由来歯上皮細胞)、血管機能の維持などに重要な細胞(ヒト臍帯静脈内皮細胞)を組み合わせて注入し、人工の歯胚を作った。
この人工歯胚をバイオリアクターで1週間培養させた後、2歳のミニ豚の顎に移植。結果、細胞を含む人工歯胚では、2カ月後に62.5%、4カ月後に50%で歯のような構造を形成した。これは細胞を含まない型だけの移植と比べて、高い成功率である。
形成された歯を詳しく調べると、象牙質、セメント質、歯髄など、天然の歯と同じような構造を確認した。また、歯根膜に似た組織が形成されていたことも発見された。
Source and Image Credits: Weibo Zhang, Pamela C Yelick, In vivo bioengineered tooth formation using decellularized tooth bud extracellular matrix scaffolds, Stem Cells Translational Medicine, Volume 14, Issue 2, February 2025, szae076, https://doi.org/10.1093/stcltm/szae076
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