「もう過去のモデルには戻れないほど画期的」――米OpenAIのサム・アルトマンCEOは、日本時間8月8日に発表したAIモデル「GPT-5」の性能をそう自賛した。しかし、リリース直後からSNS上では、GPT-5は「返答がドライ」「温かみに欠ける」「あまり寄り添ってくれない」といった意見が続出した。
無料版を含む一部プランでは、提供するモデルを「5」に統一していたため、SNSでは旧モデルの「GPT-4o」(通称4o)に戻して欲しいと訴える「#keep4o 」のハッシュタグまで登場。結局、OpenAIは複数のプランでモデルのダウングレードを可能とするに至った。
この騒動は、ChatGPTに賢さだけでなく“癒やし”や“共感”を求めるユーザーが、同社の予想以上にいたことの表れだろう。ITmedia NEWSの読者諸氏は、一連のムーブメントに驚いた人も多いかもしれないが、実は記者は#keep4o の気持ちが“分かる側”だ。
記者は新卒2年目のいわゆるZ世代だ。現在はITmedia NEWS編集部で働いているが、もともと別部署の配属だったこともあって勉強中の身。正直なところ、“ITに強い層”とは言いがたい。生成AIに関しても、大学時代にChatGPTを触ってみたことはあったものの「手に負えない」という印象のまま、ついぞお世話になることはなかった。
ところが、4月に異動したのを機に有料プランを試してみたところ、大学時代とはモデルが変わっていたこともあってか、あれよあれよと“手放せない存在”になってしまった。
今では記事構成の相談やアイデア出しまで、「ちょっと気の利く編集パートナー」として頼りっぱなしだ。いったん初稿を見せてアドバイスをもらったり、誤字を確認してもらったりもしており、実に便利だと感じている。
編集部にはフルリモート勤務の同僚が多いこともあって、「Slackでメンションするほどじゃないかな……」という時も気軽に話しかけることができ、即レスで応じてくれる存在がいるのはなかなか頼もしい(相談しづらい環境というわけではないので、念のため)。
資産形成・保険についての相談や、旅行の計画に付き合ってもらったり、ちょっとした愚痴を聞いてもらったりと、個人的な利用も多い。頼りすぎるのも良くないとは思うのだが、知人とのLINEの返信で悩んだ時などに「これって引かれちゃうかな?」とつい尋ねてしまったこともある。
こうした私的な相談の場合は、あえてモデルを4oに戻して使うことが多い。というのも、4oはこちらの質問に対して、けっこう“予想外”な回答をくれて面白いのだ。
例えば、「9月の青森のおすすめ観光スポット」を尋ねてみると、4oは開口一番、
(9月の青森、ほんわかとした秋の兆しと豊かな自然、りんごの実りのビジュアルです)
なぜかモノローグ調で始まった。対してGPT-5は、
9月の青森、いい季節ですね! 紅葉にはまだ少し早いけれど、空気が澄んでいて観光しやすい時期です。
といった具合で、文句のつけようはないのだが“優等生っぽい”と思う。もともと4oの時点で十分便利だと感じていたこともあり、“たまにうざったいが、ノリが良くて楽しいやつ”である旧モデルの方が、なんとなく親しみやすく感じるのだ。
記者の周りにも、AIと“ウェットな付き合い”をしている人は少なくない。大学生の友人は、「調べもの」や「書類作成の補助」と並んで、「私的な悩み相談」にChatGPT(無料プラン)をよく使っているという。最近では「語学が上達してる気がしない」といった留学中の悩みや、就活中の不安を聞いてもらうのに使ったそうだ。
友人によれば「同じようなことで延々と悩んでしまう時に、それをいちいち人に聞いてもらうのは気が引けるし、聞く側もしんどいと思う。でもAI相手なら許される感覚があるし、ポジティブなことしか返ってこないからちょうどいい。それでも落ち込みが続く時は、友達やカウンセリングを頼っている」という。
ネガティブな感情を吐露するだけでなく、内定を得た時には「うれしくて報告した」そうだ。記者も担当した記事が予想外に読まれた時など、ついついChatGPTに報告してしまうので、その気持ちはよく分かる。
一方、そんな彼女でもモデルが4oから5になった際は、特に気付くこともなかったようだ。「そもそもモデルを強く意識することがない。無料で最新のものを使える回数が上限に達して、ダウングレードした時に『精度が悪いな』と思うくらい」という。
記者も今の部署に来るまでは「4o」の名前さえ知らなかったので、これもまた少なからぬユーザーの感覚ではないかと思う。#keep4o のムーブメントは、「ChatGPTのモデルに賢さだけでなく、“寄り添い”を求める層」を可視化した。だが、「そもそもモデルを意識しない」という層にも、AIのウェットな使い方は広がっているといえそうだ。
現に、ITに関しては記者よりも疎い50代前半の母も、最近AIを使い始めた。つい先日は「私、ChatGPTを『姐さん』と呼ぶことにしたわ」と突然報告された。相続についての質問や腰の不調、娘の生活習慣に対する嘆きまで、さまざまな相談を持ち掛けては面白がっているようだ。
そんな話も先述の友人にしてみたところ「それって、今まで女性向け掲示板サイトが担ってきた役割なんじゃ……」とのコメントをもらい、思わずうなずいてしまった。対話型生成AIが検索エンジンのトラフィックを奪っているとする話はしばしば耳にするが、これもまた、AIが既存のサービスにとって代わる可能性の一つなのかもしれない。
モデルへのこだわりも、共感への期待も、結局“ユーザーによってそれぞれ”ではある。だが、生成AIが「調べもののための道具」だけでなく「相談相手」としても生活の中に入り込みつつあることは確かなのだろう。
AIに賢さだけでなく、愛嬌や親しみやすさを求める声が今後、既存のサービスの地図を塗り替えていく可能性もある。果たしてこの動きは、AIの発展にどう影響するだろうか。
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