複数の画像を合成する際には、「コラージュ」としてあえて組み合わせたことを明示的に表現する場合と、合成であることを隠して最初からそうであったかのように表現する場合がある。
後者が大変なのは、撮影された状況、すなわちカメラや照明、ホワイトバランスなどが全く違う絵を組み込むため、そのままでは背景と馴染まないことだ。これをクリアするために、合成する映像にはカラーグレーディングが必須となる。
しかしこれは慣れていないとどうすればいいのか見当もつかないだろうし、慣れていても満足いく結果になるまで、大変に時間がかかる作業である。
これをAIの力で一気に処理するのが、「調和」という機能だ。合成したい映像をレイヤーで重ね、メニューの「レイヤー」から「調和」を選択するだけで、AIが自動的に馴染むよう調整してくれる。
例として、海岸にある椅子を複製して反転し、横に配置してみた。そのままではいかにも貼り付けましたといった格好だが、「調和」を選択すると、合成画像のコントラストや色味を調整してくれるだけでなく、影も付けてくれる。これを手動でやっていたら大変な作業だ。
これは動画でも重宝されるだろう。実写動画の合成は、動くマスクを生成することが難しいため、多くはクロマキーバックで撮影される。被写体と背景までの距離が十分に取れれば、被写体と背景に別の照明を施すことができるが、日本の場合はスタジオが小さい、低予算であるなどの条件が重なり、背景のグリーンやブルーが被写体に色かぶりを起こすことが多い。
これをカバーするため、編集ツールのクロマキーでは、「Suppress」という、クロマキーで使用している色位相と逆相の色を当て込む機能を持つものがある。ただこれは色かぶりを除去するだけのことであり、背景に対して馴染ませるという機能ではない。ましてや自然な影を付けるには、撮影素材の影をそのまま使う以外にはあまり方法がなかった。
課題は、動きのある物体に対する影の整合性だろう。1コマずつのフレーム処理になるわけだが、毎回新たに演算していては、連続性が保てない。画像全体をAIで生成する場合と違い、既存の背景に対してどのように処理するべきか、動画処理アルゴリズムを考えるだけで頭痛がする。この機能が動画に載るまでは、かなり時間がかかるだろう。むしろ背景映像をRAGとして学習させ、全体をAIで生成させるといった、従来とは全く違うアプローチの方が早いかもしれない。
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