このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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オーストラリアのモナッシュ大学などに所属する研究者らが発表した論文「Sleep regularity is a stronger predictor of mortality risk than sleep duration: A prospective cohort study」は、毎日同じ時間に寝る習慣が、睡眠時間の長さよりも死亡リスクを低くすることを明らかにした研究報告だ。
この研究では、英国バイオバンクの6万977人を対象とした調査を実施。参加者の手首に装着した加速度計から1000万時間を超えるデータを収集し、睡眠規則性指数(SRI)という指標を用いて睡眠パターンの一貫性を評価した。SRIは0〜100までの値を取り、100に近いほど規則的な睡眠を意味する。
最も規則的な睡眠パターンを持つ上位20%の人々は、毎日ほぼ同じ時刻に就寝・起床しており、その時間差は約1時間以内であった。一方、最も不規則な下位20%の人々では、就寝・起床時刻に約3時間のばらつきがあった。
最大7.8年の追跡期間中に1859人が死亡したが、睡眠が規則的な上位80%の人々は、最も不規則な下位20%と比較して、全死因死亡リスクが20〜48%低いことが判明した。
死因別の分析では、睡眠規則性はがん死亡リスクと特に強い関連を示した。規則的な睡眠パターンを持つ人々は、がんによる死亡リスクが16〜39%低く、心血管疾患や代謝疾患による死亡リスクも22〜57%低かった。
従来の研究では7〜9時間の睡眠が最適とされてきたが、今回の研究では睡眠の規則性の方がより重要であることを示している。
このような日々の睡眠規則性の変動は、光への暴露や食事、身体活動などの環境刺激のパターンも不規則にし、体内時計を混乱させる。この慢性的な体内時計の乱れが、長期的に健康に悪影響を及ぼすと考えられる。
研究者らは、睡眠時間を延ばすことよりも、規則的な睡眠パターンを維持することの方が実践しやすい可能性があると指摘。現代社会ではさまざまな理由で十分な睡眠時間を確保することが困難な場合が多いが、毎日同じ時刻に就寝・起床することは比較的実行可能な目標だろう。
Source and Image Credits: Daniel P Windred, Angus C Burns, Jacqueline M Lane, Richa Saxena, Martin K Rutter, Sean W Cain, Andrew J K Phillips, Sleep regularity is a stronger predictor of mortality risk than sleep duration: A prospective cohort study, Sleep, Volume 47, Issue 1, January 2024, zsad253, https://doi.org/10.1093/sleep/zsad253
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