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SCSKがクルマを作った!? 9カ月で完成した「SCSK-Car」実物を見てきた なぜSIerがクルマに手を出したのか(1/2 ページ)

» 2025年10月31日 15時22分 公開
[吉川大貴ITmedia]

 住友商事傘下のSIer・SCSKは10月30日、自動車メーカー各社の最新モデルやコンセプトモデルが集まる「Japan Mobility Show 2025」(10月30日〜11月9日、東京ビッグサイト)で、同社が初めて作ったコンセプトカーを公開した。

photo SCSK-Car

 ……書き間違いではない。SIerが車を展示したのだ。その名も「SCSK-Car」──水色のボディーが特徴の5人乗り電動SUVだ。会場では動作の様子は見せなかったものの、実際に乗り込み、車内システムのデモなどを体験できた。

 SCSKはなぜSIerという立場で車を作るに至ったのか。そして今回挑戦した車作りの今後は──Japan Mobility Show 2025の現場で、同社に疑問をぶつけてみた。

これがSCSKのクルマだ 5人乗り電動SUV

 今回展示したSCSK-Carは、生成AIでドライバーと音声コミュニケーションができる車内システムを特徴としたSUVだ。デザインのモチーフは「イルカ」。Z世代をターゲットに想定して開発したという。インストルメントパネルは、運転席から助手席までを一面で覆った44.6型ワイドモニター。後部座席にも13.3型モニターを2台搭載する。モニターや電子制御ユニットを統合・制御するSoCには「Qualcomm SA8775P」と「NVIDIA Orin」を採用した。

photo 車内の様子
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 サイズは4640(全長)×1870(全幅)×1655(全高)mm。バッテリーはリチウム鉄リン酸塩(LFP)を採用し、容量は77kWh。航続距離は600km以上という。急速充電に対応し、約30分で約80%まで充電できる。

 運転席のモニターは速度などの表示に加え、カーナビとして利用可能。ドアの開閉やキーのロック・アンロック、エアコンの制御もできる。1画面で表示するだけでなく、ウィンドウを開くことで実質的な分割表示も可能だ。これにより助手席に乗っている人だけがWebブラウジングをしたり、動画を再生したりすることもできる。カラオケアプリやペイントアプリも利用できる。

 LLM(大規模言語モデル)を活用した音声操作機能も搭載。現地ではワイドモニターや車内システムの機能を体験できるブースも設けられており、そこで音声操作のデモを体験できた。今回のデモではGPT-4oを採用していたが、システム自体は他のモデルも使用できるという。例えば「こんにちは」と呼び掛けると「こんにちは、今日はどうする?」などと回答する。

 LLMにドライバーの嗜好を把握させることで、より個人に合わせた対応も可能にできるという。ユーザープロファイル機能も搭載し、設定やLLMの対応をドライバーごとに切り替えることもできる。

 SCSKによれば、完成までにかかった時間は約9カ月。下請け構造に頼らない水平分業制で開発することでスピードを速めたとうたう。SCSKの開発チームは20人程度で、海外OEM事業者など数社と協力したとしている。

なぜSIerがクルマを? 背景には“脱SI・脱請負”

 コンセプトカーということもあるが、SCSK-Carの機能や内装はハイエンドモデルさながら。なぜSCSKがこんな車を作るに至ったのか。SCSKは2011年、住商情報システムがCSKを吸収合併して誕生したが、合併前の1980年代から自動車制御ソフトや車載システム、コネクティッドカー技術の開発を手掛けてきた。

 ただし昨今、車に関しては“脱SI・脱請負”の道も模索してきたと同社。SCSK-Carの開発もその一環で、実際に車を作ることでソフトウェアを中心にした車作りを提案すると同時に、自動車作りに必要なマネジメント能力を対外的に示すことが目的という。

 そのため車の製造販売への参入は検討しておらず、今回得た知見や出展そのものを起点に、他社とのさらなる共創につなげたい考えだ。

 中でも水平分業制により開発を高速化できた点は強みになると同社。開発期間9カ月のうち3カ月は要求の策定、6カ月を開発に割いたが、最後の3カ月で新たな要求の策定を並行で進められたため、アップデートや新モデルの製作もハイペースに進められるとうたう。

 一方、実際に車の開発を手掛けての気付きもあった。特に中国のOEM事業者と折り合わない点もあり苦労したという。今後はSCSK独自の開発標準などを定めて対応する方針だ。

 すでに新たなプロジェクトも始動しており、順調にいけば1年以内に新たなモデルを披露できる可能性もあると同社。EVにこだわっているわけではなく、今後ハイブリッドカーやガソリン車に挑戦する可能性もあるとした。

 なお、SCSKを巡っては親会社の住友商事による完全子会社が発表されたばかりだ。完全子会社化が一連のプロジェクトに及ぼす影響について、同社は「今後に関する個別具体的なことは控えるが、これまでも住友商事の自動車部隊とは連携をしてきた。今後も(連携を)強化していく」と答えた。

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