10月28日から30日の3日間、米国ロサンゼルスにて米Adobe MAX 2025が開催された。クリエイティブ・デザイン界の巨人であるAdobeの、今年から来年にかけて展開される新機能が一気に見られる機会であり、世界中から注目されるイベントである。筆者も現地に赴き、このイベントに参加する機会を得た。
このイベントで公式に発表された新機能は、80以上に上る。ただ、Adobeが抱えるアプリそれぞれのアップデートを単体で追うことにはあまり意味がない。今回のイベントでは、プロフェッショナル向けの機能の紹介は最小限にとどめ、クリエイター・ノンプロ向けの機能が大きくフィーチャーされたのが特徴だ。
今回はAdobe MAX 2025の取材で得られた膨大な情報のうち、プロクリエイターに関係する話題をピックアップして、前後編2回に渡ってお届けする。まず前編として、クリエイティブ業界全体の構造変化と、それに追従するAdobeの戦略を解説してみたい。
現在のクリエイティブ業界を俯瞰すると、4つのレイヤーに分かれているように思う。
1つ目は、商業的プロフェッショナル層。一昔前では、いわゆるクリエイティブ業界というのは映画・テレビ・広告・ゲームなど、マスメディアで占められていた。今でも1つのコンテンツに数億〜数百億ドル単位で投資される産業は、上記に限られる。
マスメディアにおいては専門職による分業が当然であり、それぞれの分野でプロフェッショナルが存在する。Adobeの以前から存在するアプリ、例えば「Photoshop」や「Illustrator」「Premiere Pro」などは、そうしたプロフェッショナル向けのツールである。
2つ目は、いわゆるクリエイター層。1人でコンテンツを企画、出演、撮影、編集を行い、YouTubeなどネット上のプラットフォームに公開することで収益を得ている人たちだ。昔のコンテンツ界隈にはプロとアマチュアしか存在しなかったが、彼らはコンテンツ制作で収益を得ており、それが本業なので、アマチュアではない。しかし専門職であるプロとも違うというポジションである。ある種、クリエイティブ業界の総合職といったところか。
3つ目は、準クリエイター層。クリエイターの登場は、コンシューマー市場にクリエイティブなマインドを投下した。例えばTikTokには、多くのアマチュアによるショートムービーが投下されており、準クリエイターを多く輩出している。バズっている曲に合わせて踊るだけのものにクリエイティブがあるのかという意見もあるが、バエるロケーションを選んだり、メークやコスプレ衣装といったところにクリエイティビティを発揮している。こうした層が、未来のクリエイター予備軍となっている。
4つ目は、ノンクリエイター層。コンテンツ制作が本業ではないが、業務上何らかのビジュアルコンテンツを制作したい人たちだ。Adobeでは2021年末に、「Adobe Express」(当時の名称は「Creative Cloud Express」)を市場投入した。これは豊富なデザインテンプレートとAdobe Stockからの素材提供による、明らかにノンクリエイター向けのデザインツールであった。ここに2023年、生成AIである「Firefly」が導入されたことにより、多様な表現が可能になった。
今回のAdobe MAXでは、プロ向けの機能紹介は最小限に留め、クリエイター・準クリエイター、ノンクリエイター向けのソリューションが大きくフィーチャーされた。プロ向けを縮小するわけではないが、ここだけにビジネスしていっても利益は上がらない。Adobeのビジネスはサブスクリプション型に転換しており、固定層に対してアップデートを提供することでお金が稼げるようにはなっていないからだ。
しかしクリエイター以下の層は莫大な市場であり、とにかく人数がいる。これらの層を取り込めば、新規契約してくれる人の人数が増え、それによってビジネスが安定するというわけである。
これまでAdobeは、クリエイター以下の層の取り込みが遅れていた。スマホ動画クリエイターは、SNSプラットフォームが提供するスマホの専用ツールで作成しており、PCでAdobeのツールを使う必要がなかった。準クリエイターはなおさらで、表現の範囲はSNS提供ツールの機能に依存している。
ノンクリエイター市場では、Adobe Expressの認知度向上に苦戦しており、Canvaをはじめとする競合ツールに押されている。加えて生成AIブームにより、クリエイティブツールを一切使わずに画像生成する流れもできており、Adobeの名前を知らない人も多い。
今年から来年にかけて、こうした非Adobeユーザー層の取り込みが加速していくものと思われる。
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