ITmedia NEWS > 製品動向 >

“書ける”のは同じ、では「高級筆記具」とは何か? 「KOKUYO WP」開発者に聞いた素材と技術、その目的の話分かりにくいけれど面白いモノたち(3/4 ページ)

» 2025年11月28日 12時24分 公開
[納富廉邦ITmedia]

 個人的には、無駄に贅沢でゴテゴテと飾られた、実用性無視の万年筆も嫌いではないのだけど、あれは筆記具というより、やはり別のものだろう。しかも最近は、その方向はあまり流行っていないっぽい。人気があるのは蒔絵万年筆くらいではないだろうか。

こんなふうに軸には溝が彫られている。またねじ切りの美しさにも注目してほしい。写真は金属軸だが、木軸も同じ感じで溝が彫られている

 今回の限定軸は、スタンダードのタイプと違い、軸にランダムな間隔で細い溝が掘られている。これは木軸、金属軸共通なのだけど、もともとは、木軸のために考えられたデザインだったそうだ。

 「軸に施した切削加工は、カリモク様と『木であることをどう伝えるか』を突き詰めて考えた結果です。木のぬくもりを伝える手段として、手加工のような温かみのあるフォルムに辿り着きました。それに合わせて、キャップにもランダムライクなスリットを入れることで、軸との一体感が生まれ、工芸品のような佇まいを持つ工業製品が実現しました。キャップは木の樹皮を、胴軸はそれを鑿(のみ)で削り出した木肌をイメージしています。木材が加工されていく過程を、ペンのデザインで表現したわけです」。

 開発担当者の話は、あくまで工芸品ではなく工業製品であるという矜持と、その上で、工芸品的な筆記具を否定しないという姿勢が感じられて気持ちがいい。製品を持った時に嫌味な感じがないのは、こういう姿勢のためだろう。安易にアートに走らない姿勢には好感が持てる。

木軸がずらりと並ぶと、個体差の大きさが分かる。置かれている木目が目立つ台も軸と同じイチイガシで作られている。この木の個性がよく分かるディスプレイだ(発表会で撮影)

 今回の木軸の最も面白いと思うポイントは、その個体差の激しさだ。木軸の筆記具は、木の肌を見せようとすると、多かれ少なかれ木目などの違いで個体差は生まれる。それは木工製品の魅力の一つなのだけど、工業製品としては、あまりに個体差が激しい製品は世に出しにくいはずだ。ところが、今回、そこを踏み外す勢いで、まるで別の製品といっていいくらい、木目や木自体の色に差があるのだ。

 イチイガシは、古くは工具の柄などに使われていた素材だ。「丈夫で手になじみやすい木です。また、樫には虎斑(とらふ)と呼ばれる美しい斑紋が現れることがあり、一本一本に豊かな個性が見られます。筆記具の軸に使うにあたっての欠点は特にありませんが、あえて挙げるとすれば、虎斑の出方が一本ごとに大きく異なるため、お客様によって好みが分かれる可能性があることでしょうか。しかし、最も大切にしているのは木の個性なんです。工業製品では通常、不良とされてしまうような違いやバラつきも、木の個性として捉え、できる限り多様性を受け入れた製品として提案することを心がけています。これが、コクヨが木軸を作る上で、カリモク様と同じ『森との共存』という理念を共有することにつながると考えています」。

 そんな言葉の通り、一本一本、とても個性的な軸になっていて、ここまで違うとかえって選ぶ楽しみが生まれる。かつて、ジミー・ペイジ愛用のレスポールの表面に入った虎のような木目が「トラ目」と呼ばれて、それにすごく憧れていたことを思い出したり。実際、アコースティックギターを選ぶ際に、木目の入り方と木の色を一所懸命見るのは当たり前で、そういう筆記具があってもいいような気がする。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

あなたにおすすめの記事PR