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HIVの新たな寛解例、ドイツチームがNature誌で症例報告 ドナー候補が広がる可能性もInnovative Tech

» 2025年12月22日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

X: @shiropen2

 ドイツのシャリテ・ベルリン医科大学などに所属する研究者らがNatureで発表した論文「Sustained HIV-1 remission after heterozygous CCR5Δ32 stem cell transplantation」は、HIV(Human Immunodeficiency Virus、ヒト免疫不全ウイルス)患者が高い可能性で寛解した新しい症例が示された研究報告だ。

HIVウイルスのイラスト(絵:おね

 HIVは一度感染すると体内から完全に排除することが極めて難しく、これまで世界で治癒が確認されたのはわずか6人だけだった。世界で初めてHIVが完治したとする患者がベルリンの病院だったことからその人は「ベルリン患者」と呼ばれている。6人とも血液がんを治療するために幹細胞移植を受けた患者であり、しかもドナーには特殊な遺伝子変異が必要とされてきた。

 HIVが細胞に侵入する際に使う「CCR5」という受容体を完全に欠損させる変異を両親から受け継いだ人、つまりホモ接合型「CCR5Δ32」の持ち主からの移植でなければ治癒は望めないと考えられていた。ただし、6人目の患者は、CCR5Δ32変異を持たない野生型ドナーからの移植で2.5年以上の寛解を達成しており、この常識に疑問を投げかけていた。

 今回発表された症例は、7人目の治癒候補者であり、ホモ接合型ではないドナーからの移植でも6年以上の長期間の寛解が認められた。60歳の男性は、2009年ごろにHIV感染が判明し、15年には急性骨髄性白血病も発症。白血病の治療として幹細胞移植が必要となったが、理想的なホモ接合型のドナーは見つからなかった。

 そこで研究チームは、CCR5の片方だけに変異を持つヘテロ接合型のドナーを選んだ。この場合、移植後もCCR5は機能しており、理論上はHIVが細胞に感染できる状態が続く。

 移植は15年に行われ、順調に経過した。患者は移植後もHIV治療薬(抗レトロウイルス療法)を飲み続けていたが、18年に服用を中止した。通常であれば薬をやめると数週間でウイルスが増殖を始めるが、この患者では6年以上たった現在も血液中にウイルスは検出されていない。

 なお、この男性はベルリンの病院で治療したため、論文では「第2のベルリン患者」と呼んでいる。

 数学的なモデルで計算すると、薬なしで6年間もウイルスが戻ってこない確率は0.07%しかない。この患者に起きたことは統計的にはほぼあり得ないことであり、治癒の可能性は高いといえる。

 この発見の意義は大きい。CCR5を完全に欠損させるホモ接合型の変異を持つ人は世界でも非常に少なく、適合するドナーを見つけることは困難を極める。しかしヘテロ接合型でも治癒が可能であるなら、ドナーの候補は広がることになる。

Source and Image Credits: Gaebler, C., Kor, S., Allers, K. et al. Sustained HIV-1 remission after heterozygous CCR5Δ32 stem cell transplantation. Nature(2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09893-0



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