このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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米ハーバード大学などに所属する研究者らがScienceで発表した論文「Infrared radiation is an ancient pollination signal」は、「生きた化石」と呼ばれる古代植物ソテツが、自らの生殖器官を加熱して甲虫を引き寄せ、受粉に利用していることを発見した研究報告だ。一方の甲虫も、この熱を感知するための特殊な赤外線センサーを進化させていた。
ソテツは約2億7500万年前に出現し、ジュラ紀に最盛期を迎えた植物だ。太い幹と羽のような葉を持ち、ヤシやシダに似ているが、実際にはどちらとも近縁ではない。雄と雌が別々の個体に分かれており、雄の球果は花粉を、雌の球果は種子のもとになる胚珠を持つ。現在は約300種が残るのみで、その多くが絶滅危惧種に指定されている。
研究チームはメキシコ原産のソテツ(Zamia furfuracea)と、その受粉者であるゾウムシ(Rhopalotria furfuracea)に注目。サーモカメラで観察すると、ソテツの球果は外気温よりカ氏46度(約26℃)も高温になることが分かった。
球果内の生殖器官を担う胞子葉を持つ部分には、エネルギー産生を担うミトコンドリアが高濃度に存在していた。17種のソテツを調べたところ、いずれも1日の終わりにまず雄の球果が温まって冷え、約3時間後に雌の球果が温まるという規則的なパターンを示した。
甲虫の動きを追跡すると、この熱のリズムと連動していた。甲虫は最初に温かい雄の球果に集まって花粉を体につけ、今度は温まった雌の球果へ移動する。こうして花粉が運ばれ、受粉が成立していた。
甲虫がどうやって熱を感じているのかも解明された。触角の先端に熱感知ニューロンを備えた特殊な器官があり、その感度は宿主であるソテツの発熱温度に調整されていた。別の種の甲虫を調べても、やはり自分の相手となるソテツの温度に合わせたセンサーを持っていたという。
植物が虫を呼び寄せる手段としては、鮮やかな花の色や香りがよく知られている。しかし熱を使うこの方法は、恐竜の時代よりも古くから存在していた可能性がある。
Source: Wendy A. Valencia-Montoya et al. ,Infrared radiation is an ancient pollination signal.Science390,1164-1170(2025).DOI:10.1126/science.adz1728
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