2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
韓国のKorea Brain Research Institute(KBRI)などに所属する研究者らがPLOS Oneで発表した論文「Neural and behavioral evidence of free shipping on consumer decision making」は、人はなぜ送料無料に強く反応するのかを行動と脳活動から分析した研究報告だ。
オンラインショッピングにおいて、消費者は商品の価格だけでなく送料の有無に強く反応する。たとえ送料を含めた合計金額が全く同じであっても、人は送料無料の選択肢を好む傾向があるが、この心理的なメカニズムはこれまで十分に解明されていなかった。
研究チームは、脳の活動を視覚化するfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いて、送料が消費者の意思決定にどのような影響を与えるのかを調査した。
実験では、参加者38人を対象に、靴の購入意思決定をfMRI下で実施した。総支払額を常に5万ウォンに固定した上で、靴の画像とともに5パターンの送料(無料、2000ウォン、4000ウォン、6000ウォン、8000ウォン)と商品価格の組み合わせを提示し、それぞれの購買意欲を評価させた。価格の組み合わせを日本円で考えると以下のようになる。
実験の結果、行動データからは、送料が上がるにつれて購入意欲スコアが有意に低下することが確認された。ただし送料無料(平均2.57)と最も安い2000ウォン送料(平均2.55)との間には統計的な有意差はなく、両者の差が際立つのは4000ウォン以上の条件との比較からだった。
一方で、購入意欲スコアを反応時間で割った指標(RIS)においては、送料無料は他のすべての条件を上回り、消費者がいかに早く、かつより迷いなく送料無料を好むかが裏付けられた。
次に、fMRIによって明らかになった脳活動の分析結果は、消費者が送料無料を選ぶ際の神経メカニズムにおいて、比較対象となる送料の金額によって異なっていた。
まず、送料無料と最も安い送料(2000ウォン)を比較した場合、送料無料の方が脳の内側前頭前野(mPFC)や楔前部、下頭頂小葉においてポジティブな反応が確認された。これは無料というゼロ価格に対しては強い感情的な魅力や報酬としての価値を見出していると考えられる。
一方で、比較対象の送料が中程度(4000ウォン)になると、感情を司る領域の優位性が減少し、代わりに認知の制御や情報の再評価に関わる腹外側前頭前野(VLPFC)が強く活性化した。これは、送料の割合が高くなるにつれて、感情的な判断から価格構造全体を論理的に評価するというより慎重な認知的プロセスへと意思決定のメカニズムが移行したことが示唆される。
さらに、6000ウォンや8000ウォンといった高額な送料条件との比較では、意思決定の実行に関連する中心前回(運動野)などの領域が活性化し、高額な送料を前にすると、送料無料の選択肢に対して素早く購入行動を起こそうとする傾向が見られた。
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