「プラスチックはその軽さや、落としても割れづらいといった特徴から子供用や病院食の食器などに使用されることが多いのですが、陶器の食器と比べて、プラスチックの食器で食べる食事はなんだか味気ない、それはなぜだろうという疑問を持ちました。その気づきについて社内で議論を重ねた結果、お茶碗やお皿など、手にしたときの食器の重さや食材の温かさや冷たさを伝える力も食のおいしさにつながっているのではないかという仮説に至り、陶器のような重さや熱伝導率を持ちながら、プラスチックと同じように成形ができる素材を開発すれば、食体験を豊かにする全く新しい提案ができるのではないかと考えました。陶器の質感を『重さ×熱伝導率』と因数分解し、それらを実現する素材として、NAGORIの開発をスタートしました」。
つまり、最初は陶器のように使える「割れない食器」が作れる素材ができないかというところからスタートしたのだ。実際、石川樹脂工業のARASブランドでNAGORIを使った食器のシリーズが発売されている。最近、雑貨や生活用品の見本市に取材に行くと、陶磁器のように見える、使える、割れない食器というのは、1つのジャンルを作れるくらい人気も高い。そのくらい、陶磁器の風合いや触感は、他に替え難い魅力があるということなのだ。
筆記具にも有田焼などの陶磁器を使った製品はあった。主にガラスペンの軸や付けペンの軸、万年筆などだが、ボールペンのグリップが焼き物になっているものも製品化されている。ただ、ガラスペンや付けペンの軸は別として、内部を空洞にして、精密なサイズ感が要求される、万年筆の軸やグリップに場合、当然だが作るのが難しい。ガラスペンなどの軸にしても、量産が難しく、結果、価格も高くなるし、気軽に使うに壊れやすい。
それでも、食器同様、手で持って使う道具としての筆記具に、陶磁器の触感は向いているという発想がずっとあったことは確かで、そういう意味でも、NAGORIがFUMIの軸として採用されたのは自然な流れだったと思う。しかも、陶磁器の質感と一言でいっても、土の違い、釉薬の違い、焼き方の違いなどなどで全然違うのが焼き物の世界。その中で、NAGORIが、素焼きで薄手の陶器に近い感触だったのは、筆記具好きにとってとてもラッキーだったように思う。
面白いのは、NAGORIが「海水ミネラルは陶器のような質感を実現するためにどのような原料を使うべきか、という議論を通じて選定しました」というスタッフさんの言葉からも、海水のミネラルを使って何かを作るというのではなく、陶器のような質感のプラスチックを作ろうとしたら、その原料として海水のミネラルが向いていたということ。土を焼いて作られたものに近い触感が、海水由来で生まれたという物語。
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