ITmedia NEWS > 企業・業界動向 >

クールジャパンの失敗は生かされず? 経産省肝いりで始まった後釜施策「IP360」の光と影まつもとあつしの「アニメノミライ」(1/5 ページ)

» 2026年07月09日 11時00分 公開

 6月12日、官民ファンド「クールジャパン機構」について、政府が廃止も視野に検討へ――そんな報道がX(旧Twitter)で広がっていた。著名クリエイターを含む多くのユーザーがこれに反応するのを見て、筆者も1つの投稿をした

 テレビアニメ「チェンソーマン」でMAPPAが製作委員会方式をとらず「単独製作」に踏み切れた背景には、まさにそのクールジャパン機構などが出資して設立したファンド「ジャパンコンテンツファクトリー」(JCF)によるブリッジファイナンスがあったという指摘である。そのJCFも2025年3月末ですでに解散していること、官民ファンドというスキームが構造的に抱えてきた難しさにも触れた。クールジャパン機構というと批判ばかりが取り沙汰されるが、JCFのブリッジファイナンスのように筋の良いお金の使い方もあった――そのことも書き留めておきたい、という気持ちがあった。

 業界ではよく知られた事実の紹介にすぎないつもりだった。ところがこの投稿は250万を超える表示を集めた。裏を返せば、それだけ国のコンテンツ政策の中身が、理解・浸透していないということだろう。

 政府は33年までに日本発コンテンツの海外売上を20兆円に伸ばす目標を掲げ、経済産業省は「IP360」という大型支援策を始動させたばかりだった。そして6月下旬、くだんの赤字は540億円超という具体的な数字となり、政府はクールジャパン機構の廃止・統合を視野に検討会を設置する方針を固める。ほぼ同じ時期、国立映画アーカイブは運営費交付金の大幅な減少を受けてクラウドファンディングに踏み切っている。

 稼ぐ大企業には補助、稼げない文化基盤はクラファン、そんな対比で語られる。だが問題は、その対比の手前にある。この国のコンテンツ政策には、20兆円という目的地へ向かう海図が、そもそも描けているのか。本稿ではIP360、クールジャパン機構、そして誰が司令塔になるべきかという三つの論点からみていく。

「IP360」の掛け声はよかったが……。

 まず、IP360とは何かを押さえておきたい。正式名称は「コンテンツ産業成長投資支援事業」、令和7年度補正予算で措置された経済産業省の大型支援策で、通称を「IP360(サンロクマル)」という。マンガからアニメ、ゲーム、実写、音楽、グッズへと1つのIPを「360度」多角展開し、足し算ではなく掛け算で稼ぐ。その思想がネーミングに込められている。

 規模も思想も、これまでとは一線を画す。経産省のコンテンツ向け財政支援は、令和6年度補正の101.1億円から令和7年度補正で350.2億円へと3倍超に拡大し、うち292.9億円は基金化して複数年にわたる支援を可能にした。

海外売上20兆円を目標に掲げる(出典:経済産業省「コンテンツ産業成長投資支援事業(IP360)」資料

 従来のVIPO(映像産業振興機構)が手掛けてきた「J-LOX」「J-LOX+」――日本のコンテンツを海外へ売り込む際のローカライズ(字幕・吹替)やプロモーション(国際見本市への出展など)を支えてきた補助金シリーズ――を引き継ぎつつ、補助上限は大規模作品で15億円、流通プラットフォーム支援に至っては30億円と、桁が変わった。9つのメニューで補助率は一律2分の1。個人・チーム向けの1000万円から大企業向けの30億円まで、バリューチェーンの川上から川下までを1つの制度でカバーする設計だ。

 注目すべきは審査方法の作り替えである。これまでの、定性的で裁量の余地が大きい評価から、海外売上やMAU(月間アクティブユーザー数)といった、投資としての見返り(ROI)を測る客観指標へと軸足を移した。申請書も自由記述から項目を埋める穴埋め式に変わり、公募要領は前身制度の657ページから41ページへと圧縮された。よい作品かどうかではなく、投資としてリターンが出るか。その物差しへの、思い切った割り切りである。ところが、これが結果として大手企業・作品への支援に軸足が移ることにもなり、批判を招くこととなる。

       1|2|3|4|5 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

あなたにおすすめの記事PR