人々の日常を変えるユーザー体験の飛躍――iPhone 4Sが見せる成熟と完成(3/3 ページ)
10月14日、いよいよ店頭に「iPhone 4S」が並ぶ。全世界で受付開始から24時間の間に100万台を超える予約を集めるなど、すでに大人気の様相を呈しているが、実機に触れてみれば、すぐにその理由が分かるだろう。外観こそ変わっていないが、iOSのバージョンアップと合わせ、使用感は大きく進化・変化している。
随所に見られる「こだわり」と「心配り」
本体性能の底上げと、それと歩調を合わせたiOS 5の投入。そして強化されたカメラ機能。これらは今回のiPhone 4Sを特徴付ける要素だが、それ以外にも同機にはAppleらしい「こだわり」や「心配り」が随所にちりばめられている。
その中でも筆者が特に感心したのが、新設計されたアンテナ部である。iPhone 4Sのアンテナは、本体外周部の金属パーツを用いることこそiPhone 4と同様だが、パーツ構成が3部品から4部品に切り替わった。これはCDMA採用キャリアも含むマルチキャリア化やHSPA+対応のためというのが主な目的であるが、それ以外にも受信感度向上にも貢献している。具体的には、送信・受信で使用するアンテナを周囲の電波状況に応じて切り替えるよう動的に制御することで、iPhone 4Sよりも安定的に通話・通信ができるようになっているのだ。
今回の試用では詳細なベンチマークテストをする時間まではなかったが、iPhone 4Sのアンテナ設計変更の効果は実感できた。iPhone 4に比べて圏外からの復帰が早くなったほか、電車での移動中などに使っていても通信が途切れにくく、安定的につながるようになった。これは地方の郊外でも同様の傾向が見られた。今回は福岡〜佐世保間の高速道路で、iPhone 4とiPhone 4Sを使い比べてみたが、後者の方が明らかに通話・通信が切れにくかった。
iPhone 4Sはキャリアがソフトバンクモバイルとauの2社から選べるようになり、キャリアの観点から「つながりやすさ」に注目が集まっているが、アンテナ設計の変更によりiPhone 4S自体も先代よりも「つながりやすい」スマートフォンになった。この点については、機会を改めてしっかりとテストしたい部分である。
次に筆者が感心したのが、「バッテリーの持ち時間」である。前述のとおり、iPhone 4SではデュアルコアA5チップ搭載により、全体の処理速度が最大2倍、グラフィックス性能に至っては最大7倍まで高速化されている。さらにiOS 5の通知センターやリマインダーなどバックグラウンドで動作する機能も増えており、これらの一部はドコモのiコンシェルのように、位置情報の測位やクラウド側との通信を頻繁に行っている。にもかかわらず、iPhone 4Sのバッテリー持続時間は先代とほとんど変わらないのだ。
今回、筆者は今まで使っていたiPhone 4の環境をiPhone 4Sに移し、メインのスマートフォンとして仕事とプライベートの両方で日常利用していた。電話やメールはもちろん、かなり頻繁なカメラの利用、SNSやWebサイトの閲覧、音楽プレーヤー機能やゲームの利用などを行い、緊急地震速報機能もONに設定したが、1日使ってもバッテリーが30〜40%を切ることはほとんどなかった。iPhone 4Sのバッテリー容量がiPhone 4から変わっていないをことを鑑みると、AppleはデュアルコアA5チップとiOS 5の搭載に合わせて、入念に省電力マネジメントの最適化を行ったことが分かる。この“こだわり”は高く評価したい部分だ。
そして、もう1つ。Appleの心配りを感じたのが、アプリ動作の互換性の高さである。iPhone 4Sは、デュアルコアA5チップや新開発のカメラデバイス、そしてiOS 5の搭載と、内部的には大きな進化を遂げており、他社のスマートフォンで考えればフルモデルチェンジに近い変化となっている。しかし、これまでのiPhoneやiOS 4で動いていたアプリは、ほぼ問題なく動作している。Androidスマートフォンの互換性問題では“鬼門”とされるカメラ関係のアプリも、「Instagram」や「ToonPAINT」「プロカメラ」など有名なものをいくつも試したが、きちんと起動・動作した。むろん、膨大な数のiOSアプリすべてを試したわけではないが、内部が大幅刷新されていることを鑑みると、アプリの互換性はとても高いといえるだろう。
スマートフォン市場全体に目を向けると、ハードウェアの競争力ばかりを重視し、アプリやコンテンツ利用環境の互換性をないがしろにするメーカーも少なくない。しかし、スマートフォンにとって最も重要なのは、ハードウェア的な目新しさやスペック競争ではなく、豊富なアプリやコンテンツがきちんと動作することだ。逆説的にいえば、アプリ/コンテンツの互換性や健全な市場環境をないがしろにしてまで、ハードウェアの進化や変化を求めても意味がない。誤解を恐れずに言えば、スマートフォンにおいては、ソフトウェアとアプリ/コンテンツなどが「主」であり、ハードウェアはそれらを盛りたてるための「従」なのだ。
Appleは今回のiPhone 4Sにおいて、ディスプレイサイズの安易な拡大などやみくもなスペック競争に陥ることなく、基本機能の強化や新OSの導入に当たっても、きちんと互換性を維持するよう腐心してきた。これは多くのアプリ/コンテンツ制作会社にとってビジネスのしやすさ・安心感につながり、iOS向けのアプリ/コンテンツ市場は今後さらに拡大・活性化するだろう。このような心配りがしっかりできていることも、iPhone 4Sの魅力であり、強さの理由といえそうだ。
完成度の高さこそが、最大の魅力
振り返ればiPhoneは、常に人々のライフスタイルを革新し、豊かなものにしてきた。iPhoneが作りだす優れたユーザー体験と、無数のアプリやコンテンツ、周辺機器が織りなすエコシステム(経済的な生態系)は、スマートフォン市場を一般化し牽引しただけにとどまらず、数年のうちに世界を変える原動力になった。
iPhone 4Sはこのユーザー体験を大きく飛躍させた。ハードウェア・ソフトウェア・クラウドサービスの三位一体での完成度の高さは、総合力において他のAndroidスマートフォンを再び大きく引き離すものだ。マニア受けしそうな“飛び道具的な要素”こそ乏しいが、その成熟と完成は特筆すべきものがある。日常をより豊かに革新する力は、数あるスマートフォンの中でも随一と言えるだろう。
そして、iPhone 4Sは、より多くの人にとって手の届きやすいものになったことも注目だ。以前から定評のある直感的で分かりやすいUIデザインに加えて、iOS 5とiCloudによってPCフリーが実現したことで、これまでケータイしか使ったことのなかった「スマホ初心者」にとって魅力的な選択肢になった。アプリ/コンテンツ環境の充実からも、今回のiPhone 4Sは、スマートフォンの最初の一台としても最適なものになっている。
スマートフォンがより一般化し、ユーザーの裾野が広がる中で、iPhone 4Sは市場の拡大を加速させるものになり得る。10月14日に発売されたら、店頭に足を運び、その実力に触れてみることをお勧めする。
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