Microsoftがクラウドで目指す「AIの先にある世界」:鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(3/3 ページ)
Windows 10、クラウドサービス、Adobeとの提携、そしてAI技術――Microsoftの未来が語られたイベント「Ignite 2016」を現地レポート。
MicrosoftのAI技術は企業にどのようなメリットをもたらすか
Build 2016ではMicrosoft Cortana Intelligence Suiteの一部として発表された「Bot Framework」や「コグニティブサービス」だが、ナデラ氏の講演では機械学習やそれに伴うAIによってコンピュータの認識精度が高まり、よりインテリジェントなサービスが提供できるというサイクルが紹介された。
顕著ですぐに活用できる例としては、「カスタマーサポート」の分野が挙げられる。B2C向けの応答サービスをBotで自動化することで、より応答性に優れたサービスの提供が可能になる。サポートでの応答事例の多くはこの自動化されたBotによりさばくことが可能だが、どうしても対応が難しい場合には専門のオペレーターへと対応が昇格し、適切な受け答えで問題解決にあたる。
こうしたBotは人件費の削減が中心だと思われがちだが、実際には「応答性を高める」ことが最大の狙いであり、「待ち時間」を嫌うユーザーのニーズに応えることが主眼だ。ほかにも即適応できる応用分野があり、実際の各分野での顧客企業一覧が紹介された。
この自動応答BotはBuildでも紹介されたように、もちろんエンターテインメント分野でも有効だ。会場には元NFLのプロフットボール選手のディオン・サンダース氏が登場し、NFLとの提携で提供されているNFL Fantasy Football Botの事例が紹介された。
これはSkypeのインタフェースを通じてFantasy Footballのゲームサービスが利用できる仕組みだ。選手のステータス確認やおすすめ情報、チームの変更を対話型インタフェースで行える。専用アプリを使わない点が特徴であり、例えば車を運転中に音声対話を使ってハンズフリーでゲームを楽しむといったことも気軽にできるだろう。
Microsoftの機械学習というと、このようなBotやCortanaの応答、あるいはコグニティブサービスでの精度向上を思い浮かべる人が多いかもしれない。しかし実際には処理エラーの発生しやすいタッチパネルでのキーボード入力や、地図サービスでの最適なルート発見アルゴリズムなど、さまざまな分野で応用されている。
ナデラ氏によれば、1450年にヨハネス・グーテンベルクが活版印刷技術を確立するまでは背閉じの本は世界で3万冊程度しかなかったが、そのすぐ後には数百万程度にまで冊数が爆発的に拡大しており、これと同じ現象がコンピュータの世界にも起こりつつあるという。つまり、大量の情報を効率的に処理する手法として、こうした機械学習の仕組みが重要になるというのだ。
これまでの機械学習というとCPUとGPUの組み合わせが一般的だが、より効率的な処理のためにFPGAを組み合わせた世界初のAIスーパーコンピュータをAzure上に構築したと同氏は説明する。既に5大陸15カ国にその仕組みが展開されており、こうしたAI的な処理がほぼリアルタイムで可能になるという。
Microsoft Research(MSR)でコンピュータアーキテクチャ部門のダグ・バーガー氏が手に持つのはFPGAのモジュール。これがAzureデータセンター内のサーバに導入され、機械学習処理の速度を大幅に向上させる
壇上では従来型のサーバとFPGAを絡めたソリューションにおける「戦争と平和」のテキストをMicrosoft Translatorで翻訳した場合の処理速度を比較するデモが披露され、10倍程度の速度差があることが確認できた。
こうした仕組みがさらに一般化すれば、正確なリアルタイム翻訳が実現され、言語の壁を越え、世界中で会話が活発になる日も意外に近いのかもしれない。
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