岐阜県は北部に飛騨山脈、南部には濃尾平野が広がり、木曽川をはじめとする河川が大量の水を運ぶ。中小規模の水力発電が可能な場所は数多くあり、潜在力は日本一だ。バイオマスや太陽光でも小規模な発電設備を増やして、分散型のエネルギー供給体制を広げていく。
岐阜県は電力の分野ではユニークな存在だ。なんと電力会社が3つも混在して電力を供給している国内で唯一の県になる。大半の地域は中部電力の管内だが、北部の飛騨市は北陸電力、西部の関ヶ原町は関西電力のサービスエリアに入る。
飛騨市の周辺には3000メートル級の山々がそびえる一方、南部は広大な濃尾平野が広がり、木曽三川(木曽川、長良川、揖斐川)が流れる。こうした地域の特性から、中小水力の発電可能量は北海道を上回って日本一と推定されている(図1)。
すでに県内に導入済みの再生可能エネルギーでも小水力発電の規模が最も大きい(図2)。それでも今のところ順位は全国で10番目であり、今後の拡大余地が大きく残っている。ただし岐阜県では小水力発電の経済性に難点があると考え、太陽光やバイオマスとともに長期的に導入量を拡大していく方針である。
小水力発電は一般的に発電能力が1万kW(=10メガワット)以下の設備を指し、「小水力」とはいえメガソーラーを上回る電力を供給できるものが多くある。川の水の流れは場所にもよるが、年間を通じて安定しているため、太陽光や風力よりも効率よく電力を作り出せる点が特徴だ。
最近では電力会社の取り組みも活発になっており、中部電力が岐阜県内にある2か所のダムに小水力発電所を建設する計画を発表している(図3)。もともと県が治水用に運営しているダムを発電にも利用できないか検討を進めてきたもので、ダムからの放流水を生かして発電する。
治水用のダムは下流の地域で適切なレベルの流量を維持できるように水を放流する。従来は単に水を流すだけだったが、ダムの直下に発電設備を導入することによって、環境に影響を与えずに電力を作ることができるため注目されるようになった。「維持流量水力発電」とも呼ばれており、全国各地で導入プロジェクトが相次いで始まっている。
中部電力の計画では、岐阜県の2か所のダムで2016年度までに540kWの発電を可能にする予定だ。年間の発電量は340万kWhを見込んでおり、1000世帯近い家庭に電力を供給できる規模になる。
これまで岐阜県が懸念してきた経済性の問題も、国が固定価格買取制度を開始したことによって解消されつつある。今後は県内に数多くある小水力発電に適した場所で、電力会社以外の取り組みが活発になっていくだろう。
小水力に続いてバイオマスや太陽光でも、小さな規模の発電設備の導入が増えてきた。バイオマスに積極的に取り組んでいる地域のひとつが、関東と関西の分岐点とも言われる県南部の関市である。林業から発生する木質資源を活用したプロジェクトが市内の各地で進行中だ(図4)。
木材を加工した後に出る端材などの木質資源を固形燃料(ペレット)にして、病院などのエネルギー源として利用する。近隣の川辺町には、木質バイオマスを使った発電所では日本で最大級の「川辺木質バイオマス発電所」(発電能力4300kW)が2008年から運転を開始している。
太陽光発電では県内の各市町村で、早くも2000年くらいから学校を中心にシステムの導入を地道に進めてきた。発電能力が10kW〜20kW程度の小規模なシステムが中心だが、3年前の2009年からは導入ペースが加速している。
岐阜県の方針では2030年に向けて、太陽光発電の導入に最も力を入れる(図5)。小水力やバイオマスと合わせて、小規模な発電設備を県内の各所に広げることにより、分散型のエネルギー供給体制を長期的に構築していく計画だ。さらに燃料電池や蓄電池、電気自動車(EV)など、発電した電力を有効に活用する仕組みの導入にも県を挙げて取り組んでいく。
2014年版(21)岐阜:「太陽光と小水力で農業を変える、ソーラーシェアリングが始まる」
2013年版(21)岐阜:「清流の国に広がる小水力発電、山沿いと平地でも落差を生かす」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.