太陽光と小水力で農業を変える、ソーラーシェアリングが始まるエネルギー列島2014年版(21)岐阜

広い平野に大きな川が流れる岐阜県では年間を通じて農作物を栽培することができる。再生可能エネルギーを取り入れた新しい農業を目指して、営農型の太陽光発電が広がり始めた。農業用水路では小水力発電が活発になる一方で、用水路の上部に太陽光パネルを設置する斬新な取り組みも見られる。

» 2014年09月02日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 岐阜県の南部には濃尾平野が広がり、木曽三川(木曽川・長良川・揖斐川)が雄大に流れる。日射量が豊富な温暖な地域で、米や野菜の栽培が盛んに行われてきた。しかし最近では他県と同様に農業従事者の減少に伴って耕作放棄地が増えてしまい、県が対策に乗り出している。対策の1つが営農型の太陽光発電、いわゆる「ソーラーシェアリング」である。

 そのモデルケースになるのが2014年1月に稼働した「美濃加茂エネルギーファーム」である。岐阜県が美濃加茂市に所有する市民広場の一角に、高さ2.5メートルの架台を設置して、6500枚の太陽光パネルを敷き詰めた。パネルの下では9000本に及ぶ低木が栽培されている(図1)。

図1 「美濃加茂エネルギーファーム」の全景(左上は太陽光パネルの下で栽培する低木)。出典:美濃加茂市、岐建、コスモ石油販売

 発電能力が1.5MW(メガワット)あるメガソーラーで、年間の発電量は160万kWhを見込む。農作物を栽培しながら、一般家庭で440世帯分の使用量に相当する電力を供給することができる。地域の防災対策の一環で、自立運転が可能なパワーコンディショナーを設置したほか、非常用のコンセントを4カ所に設けて停電時の電源としても利用できるようにした。

 岐阜県内では実際の農地でも営農型の太陽光発電は始まっている。美濃加茂市の西側に広がる各務原市(かがみはらし)で、2000平方メートルある畑の約半分のスペースに太陽光パネルを設置した。この農地で栽培している野菜は里芋や小松菜である。

 美濃加茂市のメガソーラーと違って、細長い太陽光パネルを採用した点が特徴だ。間隔を空けてパネルを並べることで、地面にも長い時間にわたって光が当たるようにした(図2)。遮光率は30%に収まり、ソーラーシェアリングの対象になる農作物を増やすことができる。発電能力は50kWと小さいものの、年間の発電量は6万kWhになり、売電収入は200万円を超える。農家にとっては貴重な収入源になる。

図2 各務原市の農地で実施中の営農型太陽光発電。出典:野田建設

 各務原市の西にある岐阜市では、農業用水路を利用したユニークな太陽光発電の事例を見ることもできる。用水路の上部に横幅が8メートルの架台を設置して、200メートル以上にわたって約600枚の太陽光パネルを並べた(図3)。

 発電能力は149kWで、年間の発電量は17万kWhを想定している。全量を中部電力に売電して、用水路の維持管理費の軽減に役立てる方針だ。年間の売電収入は約580万円になる。農業用水路でも日当たりが良ければ、太陽光発電が有効なことを示した先進的な事例である。

図3 「各務用水」に設置した太陽光パネル。出典:農林水産省東海農政局

 大小さまざまな川が流れている岐阜県には、小水力発電を導入できる場所は数多くある。環境省の調査によると小水力発電が可能な地点は県内の1600カ所にのぼり、発電規模は140万kWに達して全国でもトップだ。特に農業用水路は有望な導入候補に挙げられている。

 農業用水路を活用した小水力発電では、長野県との県境にある中津川市で「加子母(かしも)清流発電所」が2014年2月に運転を開始した。山の中腹を流れる用水路の上流から水を取り込んで、裾野に設置した発電所まで1.1キロメートルの距離を水圧管路で流して発電に利用する(図4)。

図4 「加子母清流発電所」の建屋と水車発電機(上)、設置場所(下)。出典:岐阜県農政部、農林水産省東海農政局

 これで水流の落差は61メートルになる。用水路から取り込む水量は最大でも毎秒0.6立方メートルに過ぎないが、それでも220kWの電力を作ることが可能だ。年間の発電量は168万kWhになり、設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)は87%と極めて高い。用水路の安定した水量を利用できるメリットである。

 農業用水路を中心に小水力発電の導入プロジェクトが拡大して、固定価格買取制度の対象になる設備も増えてきた。岐阜県内で認定を受けた小水力発電は全国で8番目の規模になった(図5)。さらに新設計画も相次いで始まっている。

図5 固定価格買取制度の認定設備(2013年12月末時点)

 岐阜県と中部電力が連携した小水力発電プロジェクトが県内の2カ所で進行中だ。山間部にあるダムの直下に中部電力が建設するもので、いずれも2015年6月に運転開始を予定している。そのうちの1つ「阿多岐(あたぎ)水力発電所」は県営ダムの水流を利用する(図6)。

図6 「阿多岐水力発電所」の設置イメージ。出典:中部電力

 ダムから下流の環境保全のために一定量を放流する「維持流量」を使って、190kWの電力を供給することができる。年間の発電量は130万kWhを見込んでいる。もう1つの「新串原水力発電所」も同様に維持流量を利用して、発電能力は220kW、年間の発電量は170万kWhを想定している。この2カ所を合わせると、一般家庭で830世帯分の電力を供給することができる。

 岐阜県に豊富にある水力と太陽光のエネルギーを生かして、災害に強い分散型の電力供給体制が県内全域に広がっていく。

*電子ブックレット「エネルギー列島2014年版 −中部編−」をダウンロード

2016年版(21)岐阜:「全国一の水流を生かして小水力発電、山奥の古い農業用水路も電力源に」

2015年版(21)岐阜:「小水力発電で村おこし、農業用水路が新たな価値を生む」

2013年版(21)岐阜:「清流の国に広がる小水力発電、山沿いと平地でも落差を生かす」

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.