照明の「色」と「強さ」を使い分けると仕事がはかどる?節電しながら快適かつ創造力を発揮できる照明環境(3)

前回までタスク&アンビエント照明の上手な使い方について解説してきた。今回は話題を変えて、仕事の目的や中身に合わせて照明の光色と強さを変えることによる効果について紹介したい。まだ実験中の部分もあるが、実際にやってみると、予想以上に仕事がはかどると実感できるものだ。

» 2012年12月17日 09時00分 公開
[八木佳子/イトーキ,スマートジャパン]

連載第1回:節電に成功しても、不快と感じる照明環境は失敗作

連載第2回:人間の光に対する感じ方も利用して、明るく見せる

仕事を進めるには創造力を発揮しなければならない

 あなたの仕事内容を振り返ってみてほしい。「創造力」が必要になる場面があると感じる人はどれくらいいるだろうか。「創造」という言葉は研究職やクリエイターの仕事を表現する言葉であり、自分には関係ないと考える人は多いと思う。

 しかし、実際は働く人ほとんどが何らかの形で創造力を発揮して、仕事を前に進めている。現代においては、決まったやり方でずっと同じことを続けて、問題なく収益を上げ続けられる事業などほとんどないだろう。事業環境の変化を読み取って、事業の進むべき方向や個々のメンバーの担当業務の進め方を常に見直していかなければならない。

 一般的なオフィスにおける仕事を想定するだけでもいろいろな例が出てくる。予算も人員も少ない中、顧客の要求を満たすにはどうればよいか。人員が半分に減ってしまったが、期限内に業務を終わらせるにはどうすればよいか。などなど、仕事を取り巻く環境は簡単に変化する。このご時世では、厳しい方向に変化することが多いだろう。

 仕事を取り巻く環境の変化に応じて、予算の範囲で期限までに終わらせるには、同じやり方を続けていては話にならない。知恵を出して、創意工夫を凝らして、難しい局面を乗り切らなければならないのだ。このように知恵を出して、創意工夫を凝らすということは、今までにない方法を考え出す作業とも言える。これは立派な「創造」と言えるだろう。何かと厳しいこのご時世、オフィスワーカーは常に創造力を発揮して、仕事の進め方を工夫していかなければならない。

オフィスワークは大きく4種類に分類できる

 イトーキでは創造力が必要になるさまざまな仕事を、2つの軸で整理している。1つ目は「人の軸」。個人作業か、あるいは会議のように組織で進める仕事か、つまり1人で進める仕事か、みんなで進める仕事かということだ。

 もう1つは「思考の方向」だ。新しい情報を探すときやアイデア出しなどのときは、思考を発散させて考えの幅を広げ、既存の枠を飛び出し、時には飛躍することも必要だ。

 反対に資料を作成したり、決定を下すような仕事では、たくさんある選択肢の中から重要なものを見極めたり、対立する意見を1つにまとめたりするように思考を収束させる必要がある。

 以上のように「個人:1人で」⇔「組織:みんなで」と「発散:広げる」⇔「収束:まとめる」の2つの軸を掛け合わせると、仕事を大きく4種類に分類できる(図1)。仕事で創造性を発揮するには、この4つ、すべての仕事が必要だ。働く人に創造力を発揮してもらうには、オフィスの環境を上記で分類した4種類の仕事に適したものにする必要がある。そして、異なる種類の仕事にかかるときに、切り替えが上手くいくように適切な環境を作る必要もある。

図1 仕事に関係する人数と思考の方向でオフィスワークを分類した図。出典:イトーキ

色味は温度で表す?

 以上で分類した4種類それぞれの環境で創造力を発揮できるようにするには、どうすればよいのだろうか? その1つの方法が照明環境の整備だ。イトーキは4種類ぞれぞれの仕事に適している照明はどれかということを調べるため、照明の条件をいろいろ変えて実験を実施した。この実験では照明の「明るさ」と光の「色味」を変えた。

 光の色味は色温度で表現する。単位はケルビン(K)だ。自然界の光は、何かが燃えたときに発するエネルギーだ。太陽などの恒星も高温で燃焼しながら光を発している。簡単に言うと色温度とは、燃焼しながら光っている物体の温度を指している。

 より正確に言うと、「黒体」という実際には存在しない物体を仮定して、その黒体を燃焼させたときの温度が色温度だ。黒体は比較的低い温度で熱すると赤っぽく光り、温度を上げていくと光の色が白を通り越して青に近づいていく。ろうそくの赤い炎より、ガスバーナーの青い炎の方が高温で燃焼していることはごぞんじだろう。このように色温度では赤に近い色の光を小さい数字で、青に近い色の光を大きい数字で表す。

 例えば太陽の表面温度はおよそ6000Kだが、地上に届くまでに青味の成分が大気で吸収されたり、青空の影響を受ける。その結果、昼間の太陽光はおおむね5000〜6000Kになる。また、日の出直後、日の入り直前の赤い光は2000Kになる。

図2 地球に降り注ぐ太陽光の照度と色温度の変化。出典:イトーキ

 照明機器のように燃焼することなく光を発していても、光の色を見て、黒体が同じ色になる燃焼温度で色温度を表現する。

色温度と光の強さの関係

 明るさと人の心理状態に関連があることは第1回で紹介した。同様に色温度の変化と人の感じ方の違いにも一定の傾向があることが分かっている。例えば赤〜黄の光の下では、人は落ち着いた気分になる。一方、白〜青白い光の下では目が冴えて活動的な気分になる。これも一日の日光の変化に照らし合わせれば自然なことと言えるだろう。

 ここで1つ注意してほしいことがある。光に対する感じ方と、色温度の値が反対の関係になるということだ。例えば人間は赤っぽい光を暖かいと感じ、青白い光を涼しい、冷たいと感じる。しかし、黒体を熱して赤に近い光で光っているときは、低めの温度で熱しており、青に近い光で光っているときは高温で熱している。つまり赤に近い色の光の色温度は低く、青に近い色の光の色温度は高くなるのだ。

 自然界に存在する炎には、木や草が燃えるときの炎のように赤味のものが多い。このため人間は赤い光を見ると暖かいと感じるようになったのではないかという説がある。反対に、自然界に存在する青白いものは水や氷だ。これらを連想する色、つまり青に近い色を見ると涼しいとか冷たいと感じるようだ。

 第1回で、人間は明るいところでは活動的になり、気持ちも明るくなるという傾向があることを説明した。照明を計画するときには、明るさに合わせて色温度を変えるのが常識とされてきた。照度を上げて明るくするなら色温度も高くして、活動的な気分にさせることを狙う。照度を下げて暗めにするなら色温度を低くして、落ち着いた気分になってもらうことを意識する。この関係が変化すると、人間の感じ方も変わる。照度が高いにもかかわらず色温度が低いと暑苦しく感じ、照度が低いにもかかわらず色温度が高いままだと寒々しく感じるのだ。これを「クルーゾフ効果」と呼ぶ。

常識では避けるべきと言われる組み合わせも……

 実験では4種類の環境を用意した。照度も色温度も高い環境と、反対に照度も色温度も低い環境。さらに、照度が高く色温度が低い環境と、照度が低く色温度が高い環境の4種類だ。「高照度×低色温度」や「低照度×高色温度」は、従来の照明の常識では避けるべきものだが、この実験ではあえて試してみた。もちろん、色温度も照度もあくまでもオフィス環境として現実的な範囲に収めている。

 4種類の環境を用意したら、それぞれの環境の中で被験者に模擬作業をしてもらった。作業の内容は1人で処理するPC作業と、4人によるディスカッションである。作業の後に、実験中に感じた印象について、あらかじめ用意した18対の用語のどちらにより近いか評価してもらい、それぞれの作業中に各照明条件のもとで、どのような気分になるのかを調べた。

図3 4種類の環境それぞれについて、このように5段階で回答してもらった。出典:イトーキ

 結果を見ると照明条件の変化に応じて、被験者が抱く印象が明確に変化することがわかった。例えば照度も色温度も高い環境、つまり青白く煌々とした照明の下では、目が冴えて活動的な気分になる。仕事に集中しやすく、仕事がはかどる感じを得られる。

 一方、照度が高くても色温度が低いとき、つまり黄味を帯びた強い光の下では、仕事がはかどる感じも得られるが、同時にリラックスした感じも受ける。上で説明したように、この組み合わせは従来の照明の常識では避けるべきものだが、この試験では決して悪くない結果になっている。

 照度も色温度も低くなると、さらにリラックスでき、最も心地よく感じる。そして、照度を低くして色温度を上げると、被験者は特に強い印象を感じないと回答することが多かった。言い換えると「普通の環境」といった印象になる。ただし、あまり極端な設定にすると寒々しい印象になってしまうが。

 4つの照明条件で感じられる印象の違いを分かりやすく表すため、「パキパキ」「イキイキ」「ユッタリ」「ニュートラル」と名付けた。現在、自社の執務席や会議室にこの4つの条件を再現できる照明を導入して、自分たちの実際の仕事を通じて効果を検証しているところだ。

図4 「パキパキ」「イキイキ」「ユッタリ」「ニュートラル」の各環境と、照度、色温度の関係。出典:イトーキ

仕事の種類に応じて照明を使い分ける

 創造力を発揮して仕事をより効率良く進めるには、仕事の種類に応じてそれぞれ適した雰囲気作り、場作りが大切だ。例えばアイデアを絞り込んで提案資料を作るようなときは、リラックスしているよりも集中している方が、考えがあちこち飛躍せずまとめやすい。自力で集中力を高めることも不可能ではないが、集中力を高めやすい環境があるなら、その環境で作業した方が良いということはいうまでもないだろう。

 一方チームで会議を開いてアイデアを出し合うとき、リーダー(議長)やファシリテーター(議事進行役)が、「さあ、既成概念を捨てて斬新なアイデアを出し合おう」と口でいうだけではメンバーの意識はなかなか変わらない。そこで照明の強さと色を変えてみよう。場の雰囲気を一変させることができる。

 瞬時に照度や色温度を変えるにはそれなりの設備が必要なので、すぐに導入することは難しいかもしれない。場所ごとに照明の強さと光色を変えるだけなら比較的簡単にできるのではないだろうか。自分たちの働き方をもっと創造的なものに変えたいと思っている方は、まずは一様に白く明るい照明環境から脱却して、照明の強さと光色の違いが作り出す場の雰囲気の変化と、その効果を実感してほしい。

 好評をいただいているこの連載も次回が最終回だ。今回紹介した「パキパキ」「イキイキ」「ユッタリ」「ニュートラル」の4種類の照明環境を効果的に利用した働き方の例や、照明や内装などを考えるときに気を付けていただきたいことについて紹介したい。

連載第4回:照明環境を使い分けて仕事の能率を上げる

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著者プロフィール

八木 佳子(やぎ よしこ)

イトーキ ソリューシリョン開発統括部 Ecoソリューション企画推進部 Ud&Eco研究開発室 室長。認定人間工学専門家。人と人を取り巻く環境に関する調査研究と、研究に基づくソリューション開発に取り組んでいる。


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