産業用で特にシステム電圧が高い太陽光発電システムではPID現象などによる漏れ電流が心配される。PID現象に限らず、太陽光発電モジュールの発電性能は年を追うごとに劣化していくものである。経年劣化の率は、結晶系モジュールで年率1%強と考えられている。
劣化や異常状態を確認する手法として一般的なものを、以下に挙げておこう。
1.EL(Electro Luminescence)検査
太陽光発電モジュールはセルという単位から成り立っている。発電効率が低下する原因のひとつとして、セルに入る微小な亀裂(クラックとかマイクロクラックと呼ばれる)がある。これを確認する方法として、EL現象を利用したEL検査装置を利用することができる。
簡単に言うと、セルに電気を流すことでセル自体を発光させて(肉眼では見えない)、クラックの個所を画像で判別するというものである。クラックの発生要因には製造工程上からくるものや、輸送・施工中の衝撃などがあるが、発電を続けていく中で電気的なストレスにより広がっていくものと考えられている。
EL検査は通常は屋内の暗室で実施されるものなので、屋外での広域の測定には特殊な測定が必要となる。後述する赤外線サーモグラフィー検査との組み合わせによって、定期的な検査を実施することで、不良個所を早期に確認する効果が期待できる。
2.赤外線サーモグラフィー(Infra Red Thermography)検査
赤外線サーモグラフィーは、温度差のある部分を赤外線画像に表示させる検査方法であり、幅広い用途で利用されている。
太陽光発電モジュールのホットスポットやモジュール内部のはんだ不良などによる異常は、発熱を引き起こすことが多いので、他の部分よりも高温になっている。温度差を確認することで、不良個所を早期に発見することが可能となる。
太陽光発電モジュールに限らず、コネクタなどの接触不良個所でも発熱が起こるので、同様の検査で確認することができる。
大規模な太陽光発電所では、モニタリングシステムによる出力などの監視をしており、パワーコンディショナー単位、あるいはもう少し細かい単位(アレイ、ストリングなど)で監視が実施されている。通常の流れとしては、モニタリングで出力異常が確認されると、管理者が現地に向かい、目視などの簡易検査で不良個所を確認できれば、適切な処置を施すことができる。
もし不良個所を判別できないまま、出力異常が継続するような場合には、該当個所に対して前述の劣化診断を行うことも考えられる。
太陽光発電システムは一品一様であり、特に太陽光発電モジュールに関しては故障や劣化の判断が難しい。現地の状況に応じた設計と維持管理の提案が可能なEPC業者を選定することが事業を成功させるカギになると言える。
固定価格買取制度による“太陽光発電所乱立の時代”はこれからも続くだろう。特に事業者の方々には、採算性の観点からも、維持管理に一定のコストを払う意識を持つことの重要性を再認識していただきたい。
中里 啓(なかざと さとし)
UL Japan 営業部門 アカウントマネージャー。 総合商社で国内・海外の大型発電所のEPC、IPPプロジェクトなどを経験した後、外資系の半導体・フラットパネルディスプレイ・太陽電池の製造装置メーカーで太陽電池業界との関わりを深める。現在は太陽光発電をはじめ、エネルギー関連のサービス提供に従事。
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