ようやく地熱発電所を新設できるのか、九州で調査開始自然エネルギー

国立公園内の地熱資源を利用可能とする規制緩和が2012年に成立した。九州電力はこれを受けて、地熱資源の多い大分県の阿蘇くじゅう国立公園を含む地域の調査に乗り出す。

» 2013年05月21日 11時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

 日本には地熱資源が多数眠っている。日本の地熱資源量(2340万kW)は米国、インドネシアに次いで世界第3位だ。しかし、地熱発電の設備容量(55万kW)では世界第8位と遅れており、1996年ごろから設備容量がほとんど増えていない。

 設備容量が増えない理由はさまざまだ。大きな理由の1つは、地熱発電の可能性が高い地点の8割が国立公園内にあること。工作物の新築が難しい国立公園特別地域に指定されていた場合は、現実的な計画が立てられなかった。

 2012年3月、環境省は「国立・国定公園内における地熱開発の取扱いについて」と題した文書を公開、地熱発電への道を開いた*1)

*1) 無条件の開発は認められていない。国立公園は特別地域と普通地域に分かれている。特別保護地域と第1種特別地域は依然として開発が不可能だ。第2種特別地域と第3種特別地域は、外部からの傾斜掘削についてのみ地熱発電を認め、普通地域は風景を保護すれば発電所施設を併設した地熱発電が可能になった。

 九州電力はこれを受けて、2013年度から阿蘇くじゅう国立公園のうち、大分県側の一部地域で調査を開始する。調査するのは3つの自治体(由布市、武田市、九重町)にまたがる東西3.5km、南北4.5kmの一帯。平治岳(1642.8m)の北側に当たる。5割弱が国立公園特別地域、約3割が普通地域、残りが九州電力の社有地などである(図1)。

 くじゅう連山には東西15kmに20以上の火山が分布する。九州最高峰を含み、1995年には星生山山腹で約300年ぶりに噴火が起こっている。図1詳細地図の左端にある八丁原発電所は日本最大の地熱発電所である。

図1 地熱調査を進める地域。出典:九州電力

 九州電力の調査内容は大きく2つに分かれる。まずは地表調査だ。重力探査によって地表での重力値を測定し、地層の深度や隆起、陥没の状況を推定する。電磁探査では地中の電気・磁気の流れ方を測定し、地下の割れ目の方向性や熱水で変質した岩石の分布などを推定する。

 このような調査が必要になるのは、地熱発電が直接、マントルやマグマの熱を使うのではなく、地熱貯留層と呼ばれる熱と水を含んだ構造を利用して発電するからだ。地表調査からこの地熱貯留層の位置や深度、範囲を推定する。地熱貯留層は低密度であり、塩分を含むことから、低重力かつ低抵抗を兼ねた領域として見える。

 もう1つの調査は、温泉現状調査だ。温泉の温度や流量を推定し、季節変動や成分を分析する。地熱発電の開発が進まなかった理由の1つが、既存の温泉に影響するかもしれないという不安にあった。これを解消するための調査だ。

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