100kW級のバイナリー発電が競う、低価格か高信頼性か発電・蓄電機器(1/4 ページ)

バイナリー発電は100℃前後の低温の熱源から発電できる。蒸気タービンでは利用できない熱源を使えることが特徴だ。低温の熱源は総規模が大きい代わりに、数が多く分散している。ユーザーの事業規模も小さくなるため、小型で安価な製品が必要だ。

» 2013年05月24日 09時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

 低温の熱源から「蒸気」を作りタービンを回して発電するバイナリー発電*1)。火力発電のように専用の燃料を使わず、熱源から熱を受け取って発電できることが特徴だ。高温の熱源が不要なことも使いやすさにつながる。

*1)バイナリー発電では火力発電や地熱発電のように水蒸気を直接使ってタービンを回すことはしない。水蒸気などの熱をいったん沸点の低い作動流体に移し、作動流体の蒸気を使って発電する。水と作動流体という2種類の媒体を使うので、「binary」と呼ぶ。低温の熱源であっても利用できることが、蒸気タービンと比較したときの利点だ。蒸気タービンでは例えば600℃といった高温の蒸気を使うが、バイナリー発電では100℃以下の水でも利用できる。

 大気中に熱を放出している未利用熱源は、低温になればなるほど総量も熱源の数も多くなる。しかしながら低温の熱になるほど利用しにくくなり、例え発電に利用したとしても高温の場合と比べてどうしても効率が落ちてしまう。従って安価で設置コストも低い発電機がなければ、バイナリー発電は大量利用へと進まないだろう。

 東京で開催された「2013NEW環境展(N-EXPO 2013 TOKYO)」(開催期間2013年5月21〜24日)では、このような考え方に沿ったバイナリー発電機が複数展示された。

 コンプレッサーや真空機器のメーカーであるアネスト岩田は実証実験中の製品である小型バイナリー発電装置を見せた(図1)。出力は5.5kW。90℃の温水から発電可能だという。「当社が主に想定している温泉街のユーザーは大電力を得ることよりも、無駄にしていた熱から少ない投資で電力を得ることを重視する。そこで、本体だけで600万円程度の価格帯を狙っている」。熱効率は6%程度と高くないが、導入しやすさを重視した。設置工事と合わせると、約1000万円程度になるという。

 発電機にはスクロール膨張機を使った。これは空調機器に多用されている仕組みだ。バイナリー発電の作動流体にはHFC245fa*2)を用いた。2013年1月に大分県別府市で実証実験を開始、2013年秋には試験販売を開始するという。「現在2014年以降の出荷を目指して出力11kWの製品も開発中だ」(アネスト岩田)。

*2) 常圧下の沸点が15.3℃と低いことが特徴。塩素(Cl)を含まない(CF3CH2CF2H)ため、いわゆるフロンガスとは異なり、オゾン層破壊係数は0。ターボ冷凍機やウレタンの発泡用ガスとしても利用されている。

 5.5kW出力品は毎時11.4トンの温水(90℃)を供給することで、動作する。

図1 出力5.5kWのバイナリー発電機。寸法は1.3m×1.3m×1.64m

 同社は温泉の源泉と組み合わせたシステム構成も見せた。源泉から得た水蒸気などをタービン発電機(湯けむり発電、図2)に通し、その後、バイナリー発電でさらに電力を得るというものだ。湯けむり発電では20〜50kWの出力が得られるという。

図2 湯けむり発電の仕組み
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