石油が足りない、砂糖も足りない――両方を一挙に解決する手法とは自然エネルギー

日本企業のもつバイオマス製造技術を使って、インドネシアの砂糖生産時の廃棄物をバイオエタノールに変える実証事業がほぼ完成した。バイオエタノールをガソリンに添加し、同国の石油輸入量を減らす役に立つ。

» 2013年08月26日 14時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

 経済発展が進む東南アジアの大国インドネシア。人口2億4000万人を抱え、化石燃料資源にも恵まれる。農業、工業生産も世界有数の規模に達している。2010年以降はGNPの伸びが毎年6%以上に達しており、順調な経済成長下にあるといえるだろう。

 するとどうなるか。エネルギー不足だ。インドネシアはエネルギー資源に恵まれている。同国の石炭の生産量は世界第5位であり、毎年2億トンを輸出している。だが石炭は自動車に使えない。インドネシアは産油国であり、世界生産の1.4%を産出しているものの、国内需要をまかなうには不十分な量だ。輸入に占める原油の比率は既に6%を超えている。

 そこで、インドネシア政府はさまざまな代替エネルギー開発に力を入れている。例えば2025年までに総エネルギー消費の5%をバイオ燃料に置き換えるという政策だ。バイオ燃料の一翼を担うのがバイオエタノール(エチルアルコール)。食品工業の廃棄物を使ってエタノールを作り、自動車用のガソリンに添加する(ガソホール)という流れだ。石油消費量、輸入量を減らす効果がある。

 2013年6月にはガソリンに対する政府の補助金削減もあり、ガソリン価格が40%も跳ね上がった。これはインドネシア国民にとっては災難だが、バイオエタノール導入への後押しになっている。

日本の技術が役立つ

 インドネシアの経済発展につれて、砂糖の消費量が増えている。インドネシアのさとうきび生産量は世界第10位、それにもかかわらず砂糖消費量の40%を輸入に頼っている。さとうきびの増産と砂糖生産の拡大が必要だ。

 石油の不足と砂糖の不足を一挙に解決する試みが、砂糖の増産と、増産に伴って生じる廃棄物からのバイオエタノール生産だ。

 インドネシア政府と日本政府は、砂糖生産拡大とバイオエタノール増産を結び付けた取り組み「製糖工場におけるモラセスエタノール製造技術実証事業」を2010年から進めており、2013年8月には東ジャワ州モジョケルト市にあるインドネシア国営農業公社(PTPN-X)のGempolkerep製糖工場内にバイオエタノールの製造プラントが完成、実証運転を開始した(図1)。総事業費は約23億円、そのうち、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が約15億円を負担した。

図1 バイオエタノールプラントの外観。出典:新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

 砂糖生産とバイオエタノール生産を結び付ける仕組みはこうだ。生産したサトウキビを絞り、茎の繊維である「バガス」(関連記事)と液体成分を得る。次に液体成分を精製し、「ケインジュース(糖汁)」と呼ばれる砂糖の原料と、黒褐色の「モラセス(廃糖蜜)」に分離する。

 サトウキビを増産すればするほどモラセスは増える。実証事業ではモラセスを発酵させてエタノールを得ることが目的だ。

 「年間3万Lのエタノール製造を目指した。製造プラントを置いた砂糖工場と近隣の2カ所の工場から年間約10万5000トンのモラセスを得ることで実現する」(月島機械)。

 実証事業に参加するのはインドネシア国営農業公社(PTPN-X)と、月島機械、サッポロエンジニアリングだ。図2にモラセス(図左)からバイオエタノール(図右)を得る工程を示した。図中の発酵部分をサッポロエンジニアリングが担当し、濃縮、蒸留、脱水部分を月島機械が担った。

図2 モラセスからエタノールを得る工程。出典:月島機械

 今回の取り組みでは、サッポロエンジニアリングの「凝集性酵母」を用いた繰り返し回分発酵法に特徴があるという(図3)。酵母を用いた発酵では、発酵後のバイオエタノールを含む発酵液と酵母の分離に課題があった。

 繰り返し回分発酵法では、酵母を培養し、希釈したモラセスを入れたタンクに加え発酵させるところまでは通常の発酵法と同じだ。発酵が終わるとタンク下部に自然に集まる(沈降する)性質を持つ酵母を利用することが特徴だ。遠心分離器を使わなくても発酵液と使用済みの酵母を簡単に分離できる。さらに、沈降した酵母は非常に濃度が高いため、雑菌による汚染が起こりにくい。そのため、引き続き希釈モラセスを投入することで発酵が続けられる。

 1度酵母を導入すると、発酵サイクルを10回程度繰り返すことができるため、効率的にエタノールを製造できるのだという。

図3 繰り返し回分発酵法。出典:月島機械

 同実証事業は2009年から始まっている。約1年をかけて経済性を確認するフィージビリティスタディを実施、2010年に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が月島機械とサッポロエンジニアリングに委託、今回、実証実験プラントが完成した。今後は2013年10月まで性能を確認したのち、設備をインドネシア工業省に引き渡す。

 「PTPN-Xによれば、実証実験プラントを今回置いた東ジャワ州には砂糖工場が11と、砂糖農園が16あるという。従って、今回と同規模のプラントを増設する余地は大いにある。市場性は高いとみている」(月島機械)。

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