d. 35%
三峡ダムの総工費は日本円に換算して1兆8000億円。巨大なプロジェクトだ。着工は1993年、16年後の2009年に完成している。同ダムは中国の中央部に位置し、長江の河口を望む上海市*1)から流れをさかのぼること1800kmという立地だ(図1)。
*1) 三峡ダム水力発電所の出力は、交流と50kVの直流で系統と接続されている。ダムと上海近郊までを接続する延長1100kmの高圧直流(HVDC)送電線の容量は3000MW(300万kW)。この他、2本のHVDCがあり、合計送電容量は7200MW。いずれもスイスABBが建造した。交流の送電容量は12000MW。
三峡ダムは巨大なダムだが、ダムの高さ自体は世界一ではない。日本で最も高い黒部ダム(186m)より1m低い。巨大さはダムの幅(堤頂長)に現れている。幅が2.3km以上もあるのだ。
ダムが完成したことによって長江の一部が細長いダム湖に変わった(図2)。ダム湖は東京−大阪間よりも長く伸びている。約570kmだ。ここに総貯水容量393億m3もの水がたまっている*2)。これは琵琶湖がたたえている水量の1.4倍に相当する量だ。
*2) 有効貯水量は221億5000万m3。
三峡ダムに取り付けられた水力発電機の出力は1つ70万kW。日本最大の出力を誇る水力発電所、奥只見発電所(福島県、新潟県)の出力56万kWよりも大きい。三峡ダムには、この発電機が32基も備わっている。発電機が全て稼働し始めたのは2012年だ。年間発電量は1000億kWhに達する。
日本の1世帯当たりの年間総消費電力量は、2010年時点で5650kWh。従って三峡ダム水力発電所の出力は、1770万世帯分ということになる。総務省統計局によれば、2008年時点の総世帯数は4997万世帯(総住宅数5759万戸)。総世帯の35%をまかなうことができる計算だ*3)。従って、正解はdの35%となる。
*3) 偶然の一致ではあるが、1000億kWhという年間発電量は、東京電力が2009年に販売した年間販売電力量の35%に相当する。
電力を消費する日本国内の部門は4つある。家庭部門の他に、産業部門、輸送部門、業務部門にも供給しなければならない。そのため、三峡ダム水力発電所の発電量だけで、日本全体の消費電力量の3分の1をまかなうことはできない。それでも実に巨大な規模であることが実感できる。
日本国内にこれほど大きな水力発電所を新設することは不可能だ。だが、三峡ダム水力発電所と同等の年間発電量を得る方法は他にもある。例えば、国内の全ての世帯が出力2kWの太陽光発電システムを据え付けることだ。これで、計算上、総世帯の35%の消費電力量を供給できる。いわば仮想的な三峡ダム水力発電所の完成だ。
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