なぜスマートハウスが必要なのか、独自の開発を続けるプロジェクトから学ぶ和田憲一郎が語るエネルギーの近未来(1)(1/3 ページ)

スマートハウスプロジェクトといえば、企業の研究所や事業部で進めるもの、そうでなければ国の支援を受けた大規模プロジェクトという形を採ることがほとんどだ。どちらにも制約があり、採用できる手法にも限界がある。複数の企業が技術を持ち寄って自由に研究できるプロジェクトが欲しい。横浜と福岡で進んでいる2つのスマートハウスプロジェクト(横浜スマートコミュニティ、福岡スマートハウスコンソーシアム)がそれだ。国の支援を受けたプロジェクトではない。参加企業が開発機器を持ち寄り、自ら人材を出し合って自主的に運営・活動している。どのような考えでプロジェクトを続けてきたのか、今後の見込みはどうなのか。開始から約3年が経過し、成果を生み出しているプロジェクトについて、関係者にインタビューした。

» 2014年05月28日 09時00分 公開

 国からの支援を受けて進むプロジェクト、いわゆる「国プロ」が全盛の中、「横浜スマートコミュニティ」や「福岡スマートハウスコンソーシアム」は、あえて国の支援を受けず、参加企業が個々に機器を持ち寄り、自ら人材を出し合って自主的に運営している。多数の企業が参加しつつ、自主性を持つユニークなプロジェクトだ。プロジェクトが発足した経緯や今後の見込みについて、関係者に聴いた。

 プロジェクトの経緯について最も詳しいスマートエナジー研究所CTO/ファウンダーの中村良道氏に、スマートハウスプロジェクト設立の趣旨について伺った。同氏は福岡スマートハウスコンソーシアム代表であり、横浜スマートコミュニティ副代表も務める。

スマートハウスプロジェクトを立ち上げた目的は?

和田憲一郎氏(以下、和田氏) 国からの支援に依存せず、各企業が個々に開発機器を持ち寄り、人材も供出するという形のプロジェクトは珍しいと思う。どのような経緯でこのようなプロジェクトが発足したのか。

中村氏 「将来のエネルギーとはこうあるべき」という思いを純粋に追求する会社、これを作ろうと思い立った。通常であれば、顧客の要望に応じて、顧客満足を優先しながら開発を進めるものだ。誠に申し訳ない言い方になるが、通常とは全く反対に考えた。まず、究極のエネルギーシステムを追求し、その成果に対して賛同する顧客が対価を支払っていただくという形だ。このようにして世の中に幅広く貢献したいと思っていたところ、周囲に思いを同じくする方々(これは同志と言ってもいいのかもしれません)との出会いが数多くあり、事業をスタートすることができた。

 その後、地域のエネルギー政策に熱心な福岡市に招聘(しょうへい)され、幾度か講演を行っていく中で、自然発生的に、コンソーシアムのようなものを結成しようという動きになった。その際も、国から支援をいただくというより、本当に自分達の目指しているものを自由にチャレンジしたいという思いが強く、自ら機器を開発し手弁当でプロジェクトを進めることにした。コンソーシアムの設立は、私も初めての経験であり、何をどうすればよいのか分からなかったものの2011年春に「福岡スマートハウスコンソーシアム」として設立にこぎ着けることができた。結果的に代表も務めている。

 それがご縁で、同様なものを横浜にて作りたいということになり、こちらもメンバーを募集し、2011年6月に「横浜スマートコミュニティ」として設立した。

和田氏 福岡と横浜の違いはどのようなところにあるのか。

中村氏 福岡では、「自然から学ぶ」ということをビジョンとして掲げており、各参加企業や大学、団体がスマートエネルギーシステムやHEMSなどの装置を自主的に持ち寄っている。そして、エネルギーを「創り、蓄え、賢く使う」という、植物細胞で言えばミトコンドリアと葉緑体*1)のごとく、社会の最少単位としての「家」のエネルギーシステムについて、現在抱えている課題を解決するための方向性を示すことを目的として設立した。

 具体的には、「系統電力アシスト/停電対策」「非常時の電力給電/自然エネルギーのスムーズな導入/系統電力ピークカットや平準化」などの機能を家自体に持たせることだ。

 横浜では、福岡の経験を一歩進めて、「開発機器のさらなる小型・軽量化」や、「EVの充電」さらには「ハウス間連携」も視野に入れてプロジェクトを進めた。また先進的なパッシブ技術やアクティブ技術、モデルベース開発技術を盛り込んでいる。最終的には、家のみならず、コミュニティー全体における自律的なエネルギーシステムの実現を目指している。

*1)ミトコンドリアとは細胞内に位置するエネルギー生産装置。酸素を使う。葉緑体は植物細胞が含む装置で、光を吸収し、二酸化炭素と水から酸素と糖を作り出す「光合成」を行う。

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