なぜスマートハウスが必要なのか、独自の開発を続けるプロジェクトから学ぶ和田憲一郎が語るエネルギーの近未来(1)(3/3 ページ)

» 2014年05月28日 09時00分 公開
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プロジェクトでは何を開発しようとしたのか

和田氏 コンソーシアムによる開発はどこまで進んでいるのか。

中村氏 目的を具体的に定め、実現するために、次の3つの手法を念頭に置き、進めてきた。

(1)自然に学ぶ……小さな単位からエネルギー効率を高める

 自然が教えてくれる生命観に基づくエネルギーシステムとは何だろうか。エネルギー効率の良い「小さな世界」ができれば、それを幾つもつないで大きな世界が作れるということだ。そのため、まずは小さな世界の代表としてスマートハウスの「創る」「溜める」「賢く使う」機能を植物細胞の構造をベースに、コンセプトとして確立してきた(図3)。

図3 生命観に基づくスマートハウスのコンセプト 出典:スマートエナジー研究所

(2)コンソーシアム活動により、再生可能エネルギーによるエネルギー自給率を高める

 福岡と横浜、2つのコンソーシアムは連動している。それぞれ共に学び創る場として活用し、それぞれで培った知見・経験を複数の業種をまたいだ形で、合意の形成ができるのではないかと考えている。

(3)分散型エネルギーシステムの能力を高めるための開発と検証を行う

 従来型の太陽光発電システムを備えた家は、発電した電力を家庭でまず使用し、余った電力を売電するシステムだ。そこに蓄電池やEVなどを接続するとかなり複雑なエネルギーシステムになる。ピークカットの在り方、停電時のサポートの在り方など、いろいろなシーンを想定しながら、最適化の道筋とその検証を進めていく(図4)。

図4 分散型エネルギーシステムの基本構成 出典:スマートエナジー研究所

和田氏 ここまでプロジェクトが進んでくると、次の舞台が必要では。

中村氏 プロジェクトのスタートから既に約3年が経過した。横浜では、念願であった「ハウス間連携」を確認するために、2014年内にもう1軒家を建てる予定だ。2014年4月から計画に着手し、これによりハウス間・コミュニティー間でのエネルギーマネジメントについて、より深く実証ができるのではないかと考えている。

 最も重要なことは、これまで各参加企業が自主的に開発機器を持ち寄り、手弁当の形で人員を派遣してプロジェクト活動を推進してきたことだ。今後はより範囲を拡大して、いわゆる川下、住宅メーカーや家電メーカーなど、最終消費者に近い方々にも参画いただき、実用化に向けて論議を進めることが必要ではないかと考えている。これまで培ってきた経験や知見を、より大きな舞台で実現可能なら、これまでの手弁当での活動が、その基盤になり得るのではと考えている。

図5 筆者(左)と中村良道氏(右)

インタビューを終えて

 ちょうど良いタイミングでスマートハウスプロジェクトの取材ができた。なぜなら自主的に集まった方々の努力が実り、一定の成果が現れる段階に差し掛かっているからである。今後はこれまでと違った視点で見ることも求められるであろう。実証試験から実用化に移っていくからだ。例えば、事業性や国際規格としての標準化、現存する機器との相互運用性、ユーザー視点などである。

 その意味から、今後は、自主的に集まったメンバーに加えて、多様な方々にも参画いただく、いわゆるビジネスベースとしたコンソーシアムに生まれ変わる時期にきているのではないだろうか。プロジェクトの新しい目的も生まれてくる。国際規格標準化や要素技術の確立はもちろん、企業内外のさまざまな部門で情報を共有すること(横通し)、さらには普及に向けた活動など、本格的な協議会を立ち上げることがふさわしいように思える。

 福岡や横浜のコンソーシアム以外にもスマートハウスプロジェクトは各地に複数存在している。志は異なるかもしれないが、これらのプロジェクトとの連携も必要になる。多くのプロジェクトは発足後3〜4年が経過し、そろそろ具体的な成果を見せなければならない時期でもあろう。福岡と横浜という2つのコンソーシアムが中心的な役割を果たし、スマートハウスプロジェクトとして、次へ段階への「脱皮」を図ることを期待したい。

筆者紹介

和田憲一郎(わだ けんいちろう)

1989年に三菱自動車に入社後、主に内装設計を担当。2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。2007年の開発プロジェクトの正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任し、2009年に開発本部 MiEV技術部 担当部長、2010年にEVビジネス本部 上級エキスパートとなる。その後も三菱自動車のEVビジネスをけん引。電気自動車やプラグインハイブリッド車の普及をさらに進めるべく、2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立した。


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