オフィスビルや住宅で電力と熱を作り、それと同じ量だけを消費する。まさに自給自足を実現するのが「ネット・ゼロ・エネルギー」の考え方だ。省エネ機器の導入や断熱対策に加えて、太陽光や地熱などの自然エネルギーを取り入れる。政府が補助金制度を設けて推進している。
「ネット・ゼロ」を直訳すると「正味ゼロ」、もう少しわかりやすい表現だと「差し引きゼロ」。エネルギーに当てはめた場合には、消費量から生産量を差し引いてゼロにすることを言う。電力と熱を自給自足でまかなうことができれば、「ネット・ゼロ・エネルギー」になるわけだ。
オフィスビルや住宅で実例が出始めていて、「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」や「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」の略称で呼ばれるようになってきた。政府もエネルギー分野の重点施策として、2012年度からZEBとZEHの補助金制度を開始して普及を図っている。
ただしZEBやZEHとして認定されるためのハードルは高い。ZEBには通常の省エネ設備だけでは不十分で、建物の外装を含めて断熱の効率を高める必要がある(図1)。特にエネルギー消費量が大きい照明や空調には人感センサーなどを設置して、実際に人がいるところだけで動作させる「タスク・アンビエント」方式の導入が求められる。
このように徹底した省エネ対策を実施することで、エネルギーの消費量を半分程度まで削減する。そのうえで自然エネルギーを最大限に取り入れる。太陽光発電のパネルを屋上だけではなくて壁面にまで設置するケースも珍しくない。さらに地中熱や外気を利用した冷暖房システムを導入して、ビル全体でエネルギーの消費量と同等の生産量を確保する必要がある。
ZEBを設計する場合には、エネルギー消費量の標準ケースを出発点にして、断熱対策や外気冷暖房、高効率の熱源や照明、低消費電力のOA機器などの効果を差し引いていく(図2)。それでも足りない分を太陽光発電で補う。実際には電力やガスを購入することになるが、太陽光発電の余剰分と同程度で済めばネット・ゼロ・エネルギーになる。
これだけの設備を実装すると建設費は大幅に増えてしまう。国の補助金制度ではZEBに必要な設備の購入費に対して最高で3分の2まで支給する(上限は5億円)。一方で毎月の光熱費は実質的に0円で済み、太陽光発電の電力を高い価格で売電すれば逆に収入を得ることも可能だ。CO2排出量の削減につながり、CSR(企業の社会責任)の点でも貢献度は大きい。
最近では地域全体で「ネット・ゼロ・エネルギー・タウン」や「ネット・ゼロ・エネルギー・シティ」に取り組む動きも始まっている。従来の「スマートタウン」や「スマートシティ」よりも目標が明確になり、参加者の意識をいっそう高める効果が期待できそうだ。
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