火力発電所を新設したら古い設備は廃止に、環境省が電力業界に要求電力供給サービス

九州を拠点にする西部ガスが大規模な火力発電所の建設計画を北九州市で進めている。この計画に対して環境省は、電力会社などの古い発電設備を代替する形で進めるように経済産業省に求めた。火力発電に伴うCO2排出量を抑制するためで、電力会社は老朽化した設備の廃止を余儀なくされる。

» 2014年06月03日 13時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]
図1 「ひびき天然ガス発電所」の候補地。出典:西部ガス

 電力とガスの小売全面自由化を前に、2つの業界の動きがあわただしくなってきた。ガス事業者で第4位の売上規模がある西部ガスは北九州市の沿岸地域で、LNG(液化天然ガス)を燃料に使う「ひびき天然ガス発電所」の建設計画を進めている(図1)。

 発電能力は電力会社の火力発電所に匹敵する160万kW級で、6年後の2020年度に運転を開始する予定だ。

 発電所の建設開始までに必要な環境影響評価(アセスメント)のプロセスが2014年3月に始まり、環境省は計画に対する意見書を監督官庁の経済産業省に対して5月30日に提出した。その意見書の内容で注目すべき指摘が2つあった。

 1つは西部ガスの建設計画の中で、発電設備の仕様を最新技術のガイドラインである「BAT(Best Available Technology)」に合わせている点を評価した。BATは環境省と経済産業省が火力発電のCO2削減を目指して規定する最新鋭の発電技術をまとめたもので、運転中・建設中・開発中の3段階に分けて石炭火力とLNG火力の発電効率などを示している(図2)。

図2 建設中・環境アセスメント手続き中の発電技術ガイドライン(天然ガス火力の2014年4月時点。画像をクリックすると全体を表示)。出典:環境省

 このうち西部ガスが建設する「ひびき天然ガス発電所」では、BATの第2段階にあたる建設中・環境アセスメント手続き中のガイドラインに準拠することを表明している。ただし現時点では発電した電力の供給先が未定のほか、年間の発電量に相当する規模の既存の火力発電設備を停止することも決まっていないため、CO2排出量の削減が見込めない状況にある。

 環境省は経済産業省に対して、電力業界がCO2排出量の削減目標を自主的に策定して業界全体で取り組むと同時に、運転開始から長期間を経過した火力発電設備を最新鋭の設備に早期に代替するように要求した。1カ所の火力発電設備の環境影響評価にとどまらない内容まで踏み込んでいて、この点も注目すべき指摘である。

図3 九州電力の「松浦火力発電所」。出典:九州電力

 特に問題になるのは九州電力の火力発電所だ。すでに運転開始から40年以上を経過した大規模な火力発電設備が4カ所あるが、そのうち廃止を決定したのは1カ所しかない。一方で九州電力は長崎県にある石炭火力の「松浦火力発電所」に新たに100万kWの発電設備を建設する計画で、2021年6月に運転開始を予定している(図3)。

 この松浦火力発電所の新設備を含めて、九州電力は競争入札を実施して調達先を決めることになっている。調達コストだけを考えると石炭火力が有利だが、環境省の意見をふまえるとCO2排出量を重視してLNG火力を選択する必要性が高まる。九州に限らず、全国の電力会社が発電事業の戦略変更を迫られる可能性も出てきた。

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