「窒化ガリウム」で高性能、それでも安価な家庭用パワコン蓄電・発電機器(1/2 ページ)

安川電機は「PV Japan 2014」で、GaN(窒化ガリウム)パワー半導体を採用した家庭用屋内設置向けのパワーコンディショナーを展示した。世界でもいち早くGaNを採用したという「名」よりも、高効率で安価な主力製品としての「実」をとる。

» 2014年08月06日 07時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

 太陽光発電に関する総合イベント「PV Japan 2014」(2014年7月30日〜8月1日、東京ビッグサイト)では、多数のメーカーがさまざまなパワーコンディショナーを展示した。太陽光発電システムには欠かすことのできない機器であり、出力の大小に大きな影響を与える。このため、各社とも高い性能や特徴のある機能を強調していた。

 中でも安川電機が展示した家庭の屋内に設置するタイプのパワーコンディショナーが興味深い(図1)*1)。98%という変換効率の数字は、同じ会場で展示されていた三菱電機の「PV-PN44KX」と同じだ。三菱電機は内蔵するパワー半導体にシリコンを使う代わりに、より優れた特性を持つSiC(炭化ケイ素)を採用することにより、効率を高めている。安川電機はSiCと並ぶ性能を実現可能なGaN(窒化ガリウム)を採用した。GaNモジュールを採用した世界初のパワーコンディショナーをうたう。

*1) 同社は今回展示した製品の原型となる試作品を2012年11月に発表している。「今回の展示品は電気安全環境研究所(JET)の認証を得るための、量産を見据えたモデルである」(同社)。2014年度内に製品化を予定する。

図1 安川電機のGaNパワー半導体を採用したパワーコンディショナー。200V単相対応

GaNの名前よりも普及を優先

 だが、興味を引かれたのはGaNを採用したという「名」よりも、「実」をとる製品戦略にある。「当社は2012年に家庭用パワーコンディショナー分野に参入したばかりだ*2)。既存製品も2つ(4.5kW品と5.8kW品)しかない。そこで、今回の製品を従来品に替え、主力製品として普及価格帯に据える。同出力のシリコン採用品よりも割安にすることも考えている。こうすることで、家庭用市場での地歩を固める戦略だ」(安川電機インバーター事業部環境エネルギー機器事業統括部開発部制御開発担当課長の井手耕三氏)。

 これは三菱電機とは対極的な戦略だ。同社が2014年11月以降に発売を予定するパワーコンディショナーは4モデルあり、そのうち1モデルだけがSiCを採用している。出力4.4kWのSiCモデルの価格は44万円(税別)、これはほぼ同時期に発売する出力4.0kWのシリコンモデルと比較して10万円高い。SiCはフラグシップモデルという扱いになる。

 安川電機のGaNパワーコンディショナーの出力は4.5kW。同社は価格を明らかにしていないものの、「SiCのような売り方ではない」と明言している。

*2) 1997年にパワーコンディショナーの開発を開始したのち、いったん開発を中断。その後、産業用を2010年に発売している。なお、産業用にGaNを利用する計画はない。

高度な半導体を安価に調達できるのか

 GaNパワー半導体は、シリコンと比較して製造コストが高い。そもそも、ウエハーの量産規模が非常に小さい。家庭用パワーコンディショナーに組み込むことができるほど大量に生産できるのだろうか。

 「当社は米Transphorm(トランスフォーム)とGaNモジュールを共同開発してきた(図2)*3)。富士通セミコンダクターはTransphormにGaNデバイス事業を譲渡している。さらに新たに富士通セミコンダクターの会津若松地区の工場でTransphorm向けのGaNの前工程を進める計画だと聞いている。つまりGaNの生産能力が今後高まる。当社の家庭用パワーコンディショナーは現在、月産数百台の規模だ。GaN採用品によって、例え3000台に増えたとしても供給には問題がないと考えている」(同社)。部品を供給するTransphormにとっても市場規模が広がることになる。

*3) 図2にあるTransphormの表記は正確ではない。

図2 パワーコンディショナーが内蔵するGaNパワーモジュール。HEMT素子を内蔵する
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