ホンダの燃料電池車、「小型化」「安全性」で目指すもの電気自動車(2/3 ページ)

» 2014年11月18日 07時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

安全性を高める意味

 図3は実寸大のパワートレインのモックアップ。「当社のV型6気筒のガソリンエンジン並みの寸法に抑えることができた」(ホンダ)。最上部は燃料電池の電圧コントロールユニット。燃料電池スタックが生み出した電気の電圧を高め(昇圧し)、高電圧でモーターを駆動する装置だ。中央が燃料電池スタック(燃料電池本体)、下部がパワーコントロールユニット一体型駆動モーターとギアボックス、右下が電動ターボ型コンプレッサーだ。

図3 パワートレインのモックアップ(クリックで拡大)

 「パワートレインをエンジンルームに搭載するに当たって最も心を砕いたのは安全性だ」(ホンダ)。パワートレインの小型化やコストダウンはもちろんながら、衝突時の安全性を高めることに腐心したのだという。

 衝突時に問題になるのは燃料電池セルスタックだ。走行中のセルスタックには水素ガスが常時供給されている。セルスタック内のセルが破損したり、位置がずれたりすると、安全性が失われやすい。「衝突時の加速度に耐えられるよう、セルスタック中でセルを保持する構造を工夫した」(同社)。

燃料電池の小型化は性能との戦い

 小型化にも見るべき所がある。従来のFCXクラリティ用の燃料電池スタックと今回のスタックを並べたところを図4に示す。従来と比較して容積で33%小型化している。小型化しながらも出力は従来(100kW)以上を維持した*3)

*3) 燃料電池スタックの性能を表す際、体積(L)当たりの出力(kW)である出力密度で示すことが多い。新しいスタックの出力密度は3.1kW/L。重量当たりではほぼ2.0kW/kg。この他、電圧コントロールユニットに用いる電力用の半導体(パワー半導体)に、シリコンよりも高性能なSiC(炭化ケイ素)を利用して出力を維持しながら小型化した。

図4 FCXクラリティの燃料電池スタック(右)と今回のスタック(クリックで拡大)

 燃料電池スタックの小型化に役立った技術は2つある。1つは電流密度を2006年比で1.5倍に向上できたため、積層するセル数を30%削減できたこと。もう1つは燃料電池セルの小型化だ。従来のセルと比較して厚さを20%減らすことができた。図3に燃料電池セルの断面を示す。「ごく細い流路に空気を通じるため、抵抗が大きくなる。そこで図3の右下にあるコンプレッサーの圧力を従来の1.7倍に高めた。

 図5はセルスタックとセルの関係を示したもの。奥に移っている新セルスタックにはセルが手前のアクリルの中に収められたように、垂直に多数並べられている。アクリルの中のセルは、全体ではなく、端を切り出したものだ。切り口を正面から眺めたのが、図5上のはめ込み画像である。細い穴がたくさん空いていることが分かる。

図5 燃料電池セルの一部と拡大写真

 はめ込み画像の部分を説明したのが図6だ。ホンダが採用する燃料電池は固体高分子形と呼ばれる方式。燃料極(アノード、図中のAn)に水素を供給すると、水素イオンと電子に分かれ、電子はモーターを回転するために利用される。水素イオンは固体高分子膜を通って空気極(カソード、図中のCa)に移動、空気中の酸素と結合して水蒸気を生み出す。MEAとあるのは燃料極と固体高分子膜、空気極を一体化した膜だ。

 「カソードで発生した水蒸気を液体の水に変えないよう、そのまま運び去る技術の開発に注力した」(同社)。水が連続的に発生すると、「CA」とある空洞が詰まり、空気極での反応が進みにくくなるためだ。

図6 燃料電池セルの構造(クリックで拡大) 出典:ホンダ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.