電力会社との売電契約を解消しやすく、自治体に競争入札を促す動き出す電力システム改革(26)

全国の自治体が運営する発電所は水力を中心に数多くある。大半は電力会社と売電契約を結んでいるが、従来は規制によって単価が安く抑えられてきた。小売の全面自由化に合わせて卸電力の規制も撤廃することから、政府は自治体向けに売電契約の見直しを促すためのガイドラインを設ける。

» 2015年01月05日 15時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

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 日本の電力システムを改革するにあたって、これまで電力会社に集中していた電力の流通経路を多様化することが重要な課題の1つになっている。新電力が販売できる電力量を増やせなければ、小売の全面自由化を実施しても健全な競争は起こらない。発電事業者から新電力へ供給量を増やすための対策として、政府は地方自治体に従来の売電契約を見直すように促す方針だ。

 実際に売電契約を新電力へ切り替えると、自治体の収入は確実に増える(図1)。典型的な例は新潟県で、県営の水力発電所11カ所の供給先を東北電力から新電力2社へ変更することにより、2015年度からの2年間に売電収入が96億円も増加する見通しだ。

図1 地方自治体が発電事業の競争入札を実施した理由(左)と入札結果(右)。出典:資源エネルギー庁

 自治体が運営する発電所の多くは規模の大きい水力発電所である。水力発電は再生可能エネルギーの中でも発電量が安定しているため、新電力にとっては販売する電力の調達先として有望だ。ただし大半の水力発電所は電力会社と随意契約を結んで電力を供給していて、新電力へ切り替えにくい状況にある(図2)。

図2 地方自治体が運営する発電所の売電契約の状況。出典:資源エネルギー庁

 経済産業省と総務省は2012年に、自治体に対して一般競争入札を実施して売電先を決めるように通達を出している。ところが自治体が電力会社と締結している売電契約には解約の条項が盛り込まれているケースも多く、電力会社から膨大な額の補償金を請求される可能性がある。

 その実例は東京都が2013年4月に東京電力から新電力へ売電契約を切り替える時に起こった。東京都が運営する3カ所の水力発電所の供給先を新電力のF-Powerに変更することを決めたところ、東京電力から52億円にのぼる補償金を請求された。裁判所による調停の結果、補償金は13億8000万円で決着した。

 この補償金の額はF-Powerへ切り替えることによる2年間の増収分とほぼ同じで、東京都の売電収入は増えない。それでも東京電力との契約期間は2019年3月まで続くことになっていたため、F-Powerとの契約が完了する2015年4月から4年間は補償金がない状態で高い単価で売電できるようになった。

 自治体の多くが売電契約を変更できない最大の理由は途中解約に伴う補償金にある。特に長期の契約を結んでいる場合には補償金が巨額になる可能性があるために、一般競争入札を実施することが難しい。資源エネルギー庁のアンケート調査によると、現時点でも2020年以降まで長期に続く契約が圧倒的に多い(図3)。

図3 地方自治体が電力会社と結んでいる売電契約の満了時期(発電容量の合計)。出典:資源エネルギー庁

 こうした状況を改善できるように、政府は売電契約の見直しに関するガイドラインを自治体向けに設ける予定だ。電力会社に対しても既存の随意契約を解消するように求める一方、補償金の適正な算出方法を定める。基本的なルールは電力会社が解約によって必要になる代替電力の調達コストから従来の単価を差し引き、契約期間を掛け合わせて計算する。

 この場合の代替電力は小売全面自由化後の競争によって安くなる想定で、現行の売電契約の単価から大幅に上昇しないことを見込んでいる。政府がガイドラインを設けることによって、自治体が電力会社との売電契約を解消しやすくなり、新電力に供給する電力量が増えることになる。

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