原子力発電所の廃炉を促す会計制度へ、規制料金で利用者から費用を回収動き出す電力システム改革(25)

電力システムの改革に合わせて、原子力発電所の廃炉も進める。老朽化した発電所の廃炉を電力会社が円滑に実行できるように、廃炉に伴う財務面の負担を軽減する新しい会計制度を導入する方針だ。廃炉の費用は規制対象の電気料金に含める形にして、すべての利用者が負担する仕組みになる。

» 2014年12月19日 15時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

第24回:「再生可能エネルギーに特例制度、発電量の過不足は事業者の負担を軽く」

 これから電力市場の改革を進めていく過程で重要な課題の1つが原子力発電所の廃炉である。運転開始から40年以上を経過した古い原子力発電設備を中心に廃炉を実施することになるが、その際に問題になるのが設備の利用停止に伴う資産の償却方法だ。

 原子力発電所には大きく分けて2種類の設備がある。格納容器など廃炉の過程でも必要になる設備と、廃炉に関係なく処分できる発電機などである(図1)。このうち廃炉に必要な設備については、発電所の運転を停止した後も減価償却費を電気料金の原価に含められるように、2013年10月に会計制度が改正された。

図1 原子力発電所の設備。出典:資源エネルギー庁

 残る問題は発電機などの償却方法と核燃料の処理費である。核燃料については他の用途に転用できない使用済みの燃料などを対象に、発電設備と同様の方法で会計処理できるようにする方針だ。

 従来の会計制度では、廃炉に伴う費用を一括して計上する必要がある。この方法だと電力会社の財務が一気に悪化してしまうために、適切な廃炉の判断を妨げかねない。新たに導入する会計制度では、廃炉の対象になる発電設備や使用済みの核燃料を「原子力廃止関連仮勘定」といった名目で新しい資産に振り替えてから、一定の期間に償却できるようにする(図2)。

図2 廃炉に伴う原子力発電設備の会計処理イメージ。設備の資産を新勘定に振り替えてから(左)、一定の期間をかけて償却する(右)。出典:資源エネルギー庁

 こうした処理方法によって電力会社の財務に大きな影響を与えないようにしながら、電気料金に織り込む原価を平準化する狙いだ。電気事業法では廃炉の費用を電気料金に反映できることになっていて、新会計制度の導入後も電気料金で費用を回収することになる。

 費用の回収方法は小売の全面自由化に合わせて変えていく。2016年4月に全面自由化を実施した後でも、電力会社の小売事業部門には自由料金のほかに規制料金で電力を販売する義務が残る。この規制料金の原価に廃炉の費用を含める。規制料金の原価は新電力を含めて自由化の対象になる料金の原価にも反映する仕組みで、すべての利用者が負担する形になる。

 さらに2018〜2020年には電力会社を発電・送配電・小売の各事業会社に分割する発送電分離と合わせて、小売の規制料金を撤廃する予定だ(図3)。その後は送配電事業者だけが料金の規制を受けて、送配電ネットワークの使用料(託送料金)を小売事業者から徴収する。

図3 電力システム改革の工程(画像をクリックすると拡大)。出典:資源エネルギー庁

 発送電分離の後は、送配電事業者が徴収する託送料金の原価の中に廃炉の費用を織り込むことになる。託送料金は小売事業者の電気料金に含まれるため、引き続きすべての利用者が廃炉の費用を負担することに変わりはない。

 再生可能エネルギーの買取費用を賦課金として電気料金に上乗せするのと同様に、廃炉の費用も電気料金を通じて利用者から回収する。廃炉の対象設備が増えるほど電気料金が上がっていくわけで、全国の原子力発電所で計画的に廃炉を進めて電気料金の上昇を抑える必要がある。

 すでに9基の原子力発電所は廃炉が確定しているが、新しい会計制度の対象にはならない。最初の対象になるのは、そのほかの原子力発電所で運転開始から40年以上を経過する7基である(図4)。40年を超えて運転するためには2015年7月までに国に申請する必要があり、それまでに廃炉の判断が求められる。

図4 原子力発電所の運転年数(2014年8月時点。画像をクリックすると拡大)。出典:資源エネルギー庁

 引き続き運転開始から40年をめどに原子力発電所の廃炉を判断しながら、新会計制度で処理を進めていくことになる。原子力を終息させるまでの道のりは途方もなく長い。それでも日本の電力システムを健全な体制へ作り変えるためには避けて通ることができない。

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