東北電力が再生可能エネルギーによる発電事業の拡大に積極的に乗り出した。7月から4つのグループ会社を1社に統合して事業基盤を強化する計画だ。水力を中心に発電能力を増強する一方で、太陽光や風力の出力変動に対応するため基幹の変電所に大容量の蓄電池システムを導入していく。
2016年の小売全面自由化と2020年の発送電分離に備えて、電力会社の組織再編や提携拡大の動きが活発になってきた。東京電力に続いて東北電力が再生可能エネルギーの発電事業を再編・強化する。従来はグループ企業4社で分担していた発電事業を2015年7月1日付けで1社に統合することを決めた(図1)。
統合後の新会社「東北自然エネルギー」は水力を中心に、地熱・風力・太陽光を加えた再生可能エネルギーの総合的な開発・運営会社を目指す。発電設備は合計で26カ所、発電能力は15万kW(キロワット)になる(図2)。このほかに東北電力の本体が運転する発電設備は水力で210カ所に244万kW、地熱が4カ所で22万kWにのぼる。
新会社と東北電力は2016年4月の小売全面自由化に伴って、それぞれが新制度のもとで発電事業者になる。電力の利用者のあいだでは再生可能エネルギーによる電力の購入を希望する声が高まっているため、東北電力の再生可能エネルギー発電事業を新会社と統合して販売量を増やす可能性もある。
2013年の時点で東北電力の発電電力量のうち水力は13%、地熱などの新エネルギーは4%を占めていて、合計すると17%まで上昇している(図3)。政府が2030年の電源構成(エネルギーミックス)の目標に掲げた比率は再生可能エネルギーが22〜24%で、東北電力は十分にクリアできる状況にある。
その一方で他の事業者を含めて地域内の太陽光発電設備が急速に拡大して、送配電ネットワークの接続可能量を上回る事態になってきた。すでに2015年4月末の時点で系統連系(接続)が済んでいるものと承諾済みの太陽光発電設備を合わせると564万kWに達している(図4)。東北電力が算定した接続可能量の552万kWを超えてしまった。
現在のところ原子力発電所を再稼働する見込みが立っていないため、当面は太陽光発電の電力によって地域内の供給量が需要を上回る事態は起こりにくい。ただし太陽光や風力の出力が天候によって変動すると、送配電ネットワークを流れる電力が不安定になる恐れがある。
こうした問題を回避する対策として、東北電力は他の電力会社よりも先行して大容量の蓄電池システムを導入する。基幹の変電所の1つである宮城県の「西仙台変電所」では、2015年2月に蓄電池システムの運転を開始した(図5)。政府の支援を受けて推進する実証事業で、電力会社では初めての試みである。
続いて福島県の「南相馬変電所」には西仙台の2倍の容量がある蓄電池システムを導入して、2016年2月に運転を開始する予定になっている。この南相馬の蓄電池システムだけでも、太陽光や風力の接続可能量を5万kW増やす効果が見込める。
今後さらに蓄電池システムを導入する変電所を増やして、地域内の発電量の調整能力を高めていけば、東北が日本で最も進んだ再生可能エネルギーの供給基地になる。市場規模の大きい首都圏に向けて、東北電力グループが再生可能エネルギーによる発電事業や小売事業を拡大するための基盤にもなる。
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