関西電力が火力発電設備の更新を完了したばかりの「姫路第二発電所」で蒸気タービンの損傷が発生して、応急対策工事のために6基すべての運転を6月11日から停止した。7月の供給力が最大需要に対して3%以上も低下するため、中部・北陸・四国から71万kWの融通を受けることになった。
「姫路第二発電所」は関西電力の中で最大の火力発電所である。新旧の8基を合わせて総出力は412万kW(キロワット)に達する。このうち新型の6基は火力発電で最高水準の効率を発揮するガスコンバインドサイクル方式を採用して、2013年8月から2015年3月にかけて営業運転を開始したばかりだ(図1)。
ところが5月9日(土)に3号機で重大なトラブルが発生したことをきっかけに、6基すべての運転を全面的に停止する事態になっている。発電設備の中核になる蒸気タービンの振動が3号機だけ通常よりも大きくなって自動的に運転を停止した。さらに6月1日(月)には5号機でも同様の現象が起こり、運転を停止する状態に陥ってしまった。
関西電力が3号機と5号機を調査した結果、どちらも蒸気タービンの回転翼で最後尾にある最も大きな28段目に損傷が見つかった(図2)。この損傷によって蒸気タービンの回転バランスが崩れて、異常な振動が発生したものと判断した。今のところ損傷の原因が不明なことから、同じ型式の1〜6号機すべてで28段目の回転翼を取り外す応急対策工事を実施することになった。
6月11日(木)から6基の応急対策工事を開始して、7月上旬から順次運転を再開する予定だ(図3)。6基のうち4基は7月中旬までに復旧する見通しだが、6号機は8月上旬にずれ込む。蒸気タービンが損傷した3号機と5号機では、破片が復水器にも損傷を与えていた。損傷が発生して間もない5号機は引き続き点検が必要なことから、復旧時期は未定である。
6基が運転を停止することによって、関西電力の夏の供給力は大幅に減少してしまう。復旧後も1基あたりの出力は通常の48万6500kWから41万2000kW程度に低下する。4基が復旧する7月の中旬以降でも実際の出力の合計は94万kW程度の減少になり、8月で58万kW、9月で39万kWの減少を見込んでいる(図4)。
もともと関西電力は今夏の需給見通しを4月に発表した時点でも、最大需要に対する供給力の予備率が0.8%(22万kW)まで低下する予測を出していた。他の電力会社2社(中部・中国)からの融通によって62万kWを加えることで、電力を安定して供給するための最低ラインである予備率3.0%を維持する方針だった。
新たに姫路第二発電所の出力低下が確実になったことで、予定通りに融通を受けても7月には供給力が88万kWも足りなくなる見通しだ(図5)。このため企業などの自家発電設備から調達量を増やすほか、中部・北陸・四国の3電力会社から合計71万kWの融通を追加で受ける。それでも予備率は最低ラインの3.0%で、予定外のトラブルが発生すると停電の危険が生じてしまう。
関西電力は利用者に対して可能な限りの節電を要請する一方、需要が供給力を上回る事態が想定される場合には一部の利用者に使用量の抑制を依頼するデマンドレスポンスも実施する計画だ。ただし2014年の夏の実績では最大需要が2667万kWだった。2015年の予測では124万kWも多い2791万kWになっているが、よほどの猛暑にならない限り2014年を上回る状況は想定しにくい。
4月から企業向け、6月から家庭向けでも電気料金を値上げしたため、関西の利用者の節電意欲は前年よりも高まっている。多少のトラブルが発生しても予備率3%を維持することは可能な状況だ。むしろ販売量の減少と融通によるコストの増加で、関西電力の値上げ効果が帳消しになってしまう懸念のほうが大きい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.