JR東海は、東海道新幹線車両の軽量化・省エネ化に向け、パワー半導体素子に炭化ケイ素(SiC)を採用した駆動システムを開発し、実証実験を行った。その結果、現行のN700系の駆動システムと比べ、約20%軽量化したシステムの実用化にめどが立ったという。
JR東海では、東海道新幹線車両の軽量化や省エネルギー化に向けて、技術開発を推進し、以前からさまざまな取り組みを進めてきた。例えば、現行の「N700系」を含む最新車両は、シンプル構造のボルスタレス台車を採用したことに加え、材質をアルミ合金材に変更した点、小型交流モーターを採用した点などから、初代の「0系」に比べて1台当たり250トン以上も軽くなっているという(図1)。
また、それに伴い省電力化も進んできた。N700系は、省エネルギー性に優れた700系から、モーターパワーを30%向上させたにもかかわらず「電力消費量を700系よりも19%低減」(時速270km走行時)することに成功しているという(図2)。
これらの流れの中、JR東海では、駆動システムの小型軽量化と省エネルギー性向上のため、パワー半導体素子に炭化ケイ素(以下、SiC)を採用した新幹線車両用駆動システムを開発。実証試験などを経て実用化のめどが立ったとし、走行試験を開始した。今後東海道新幹線への導入を検討していくという。
新幹線の駆動システムは、架線からの単相交流を三相交流に変換し、モーターを駆動し、新幹線を走行させるという仕組みになっている(図3)。
今回はSiCを、主変換装置に主電動機と組み合わせた主回路システムに採用した。SiCは、低損失かつ高温動作が可能で、発熱が少なく、冷却機構を簡素化できるため、走行風冷却の技術と組み合せることで大幅な軽量化を実現できる。また、損失の低減により、モーターの小型軽量化が可能な点も特徴だ。デバイスには、三菱電機の3.3kV/1500A大容量フルSiCパワーモジュールを採用している。高速鉄道向け主変換装置に大容量フルSiCパワーモジュールを適用して走行試験を実施するケースは「世界初」(JR東海)だという。
これが実際に導入された場合、N700系の駆動システムと比べて、約20%(1編成当たり10トン程度)の軽量化と、小型化が可能となるという。そのため、車両の機器配置の制約が緩和され、設計の自由度が向上する利点がある他、より省エネルギーな駆動が実現可能となる(図4)。
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