都市ガスの小売全面自由化に伴って事業者の区分も変わる。電力の場合の発電に相当する「LNG基地事業」、送配電に相当する「ガス導管事業」、そして「ガス小売事業」の3階層に再編することになっている(図5)。現在は全国で200社を超える「一般ガス事業者」がガスの製造・導管・小売を一括に手がけているが、2017年4月から3分野ごとに新規参入の事業者と同じ条件で競争する。
新規参入の中で最も強力な事業者は電力会社である。電力会社は火力発電用にLNG基地を保有していて、都市ガスの小売にもLNGを供給することができる。ただし現行の制度では電力会社が自前の導管から需要家に対してガスを供給する場合には「二重導管規制」がある(図6)。この規制を緩和することが電力会社の求める2つ目の制度改革だ。
都市ガスの事業者にはガスの熱発生量を調整したうえで需要家に供給することが義務づけられている。一方で熱発生量を調整しない状態の「未熱調ガス」を発電や車両などに利用するニーズがあり、電力会社はガス小売事業を拡大する方法の1つとして期待をかけている。
現行の制度ではガス会社と電力会社が二重に導管を運用して非効率になることを防ぐため、政府が電力会社に対してガスの供給を変更・中止する命令を出すことができる。小売全面自由化後も二重導管規制は継続する方針だが、変更・中止命令の判断基準を緩和する方向で見直す。
このほかにも電力会社は家庭を対象にした小売事業に関して3つ目の要望を出している。需要家が契約を変更するための「スイッチングシステム」の導入だ(図7)。電力の小売全面自由化にあたっては同様のスイッチングシステムを2016年3月までに稼働することが決まっている。スイッチングシステムを利用すると、契約変更に伴う手続きが簡単になり、小売事業者の切り替えが短期間で済む。
都市ガスの小売全面自由化によって、電力会社もガス会社も電力とガスをセットにして自由な料金設定で販売できるようになる。まもなく始まる市場開放の中で、両者は攻めと守りの立場が交錯するが、競争に勝ち抜くために少しでも有利な状況を作り出すことに懸命だ。利用者から見れば料金とサービスの両面で改善が進むメリットは大きい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.